ねこふんじゃったピアノの原題は「蚤のワルツ」|作曲者不詳の曲を2つのコードで弾く方法

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ピアノの前に座って最初に弾いた曲が「ねこふんじゃった」だった、という人はかなりの数にのぼります。楽譜を読まなくても、手の形を覚えるだけで音楽になってしまう。ところがいざ両手で通そうとすると、右手だけが先に走って左手が付いてこなかったり、途中で指がもつれて止まってしまったりする。子どもの遊び曲のはずなのに、意外と最後まできれいに弾けていない――そんな引っかかりを抱えたまま大人になった方は少なくありません。

結論から書きます。この曲は作曲者も発祥国も分かっていない「作者不詳の曲」で、日本語のタイトルにだけ猫が登場します。原題はドイツ語の Flohwalzer、意味は「蚤のワルツ」。そして曲の中身は、コードにするとたった2つしか使っていません。弾きにくさの正体はメロディーの難しさではなく、両手の位置関係と指の割り当てにあります。つまり、原因さえ分かれば練習の順番を変えるだけで解決できる種類のつまずきです。

この記事では、曲の起源と各国での呼び名、日本で広まった経緯、2つのコードでできている構造、両手で弾くための練習の組み立て、そして出版社公式の楽譜が難易度別にどう分かれているかまでを、一次資料の記述に沿って整理します。教室に通う前提でも、楽器を買い替える前提でもありません。自分の手元にある鍵盤で、今日から何を確認すればいいかが分かる形にしてあります。

💡 この記事でわかること

・原題「Flohwalzer(蚤のワルツ)」と、作曲者が特定できない理由
・ドイツ・フランス・イギリス/アメリカで呼び名が違う事実と、そこから読み取れること
・2つのコードとポジションでできた曲の構造、両手で弾くための練習の順番
・出版社公式の楽譜ラインナップと、難易度・編成別の選び方(550円から2,750円まで)

目次

原題は「蚤のワルツ」——ねこふんじゃったピアノに猫はいなかった

原題は「蚤のワルツ」——ねこふんじゃったピアノに猫はいなかったの解説画像

タイトルに猫が出てくるのは日本語版だけ

この曲の原タイトルは Flohwalzer、ドイツ語で「蚤のワルツ」を意味します。日本語で親しまれている「ねこふんじゃった」は、日本で付けられた通称であって、原題の翻訳ではありません。つまり、猫を踏んでしまった情景を描いた曲として作られたわけではないということです。

なぜこうなるかというと、この曲には「作曲者が付けた正式なタイトル」が存在しないからです。作曲者不詳の曲は、楽譜という形で権威づけられる前に、人から人へ手の形ごと伝わっていきます。伝わった先の国で「これは何に似ているか」という感覚で名前が付き直されるため、国ごとに違う通称が並立したまま今日に至っています。

実務的に困るのは、楽譜を探すときです。国内の出版社サイトでは「ねこふんじゃった」「ネコふんじゃった」で検索すれば見つかりますが、海外の楽譜サイトで同じ曲を探すときに日本語名は通用しません。Flohwalzer、あるいは英語圏の呼び名で探す必要があります。逆に、日本語名で見つかる楽譜の中には、原曲を素材にした編曲作品も多く混ざっています。タイトルが同じでも中身の難易度がまったく違うことがあるので、購入前には必ず編曲者名と難易度表記を確認してください。

📖 用語チェック

Flohwalzer(フローワルツァー)=ドイツ語の Floh(蚤)と Walzer(ワルツ)を合わせた語で、日本語では「蚤のワルツ」と訳されます。ドイツ語圏では定冠詞を付けた Der Flohwalzer の形で呼ばれます。「ねこふんじゃった」は原題の訳語ではなく、日本で付けられた別系統の通称です。

「作曲者不詳」は調査不足ではなく、決定できないという意味

国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、この曲について「作曲者不詳で、発祥国も明らかになっていません。複数の説が存在しますが、いずれも決定的証拠がない」という趣旨の回答が記録されています。ここで重要なのは、まだ誰も調べていないから不明なのではなく、調べた上で候補が複数残り、どれも確定できないという状態だという点です。

有力とされるものにアントン・ルビンシュタイン説があります。ロシアのピアニストであり作曲家でもあった人物で、ピアノ技法が高度に構成されていること、演奏旅行によって各地に伝播した経路が推測できることが、その根拠として挙げられます。ただしこれも推測の域を出ません。もうひとつ Ferdinand Loh という名前が挙がることがありますが、これは音楽学者のジョークである可能性が指摘されており、そもそもこの人物が実在しない可能性があります。

独学の方がやりがちなのは、検索して最初に出てきたページの「作曲者は○○」という記述をそのまま信じてしまうことです。この曲に関しては、断定している情報源ほど根拠を確認する必要があります。判断の基準はシンプルで、一次資料にあたっているか、決定的証拠がない旨に触れているか。触れずに断定している記述は、いったん保留にしておくのが安全です。レファレンス協同データベースの該当回答は誰でも閲覧できるので、原文を確認してみてください。

19世紀のヨーロッパで、子ども向けの曲として広まった

この曲は19世紀より、子ども向けのピアノ曲として各ヨーロッパ諸国で流行しました。作曲家の作品として出版され普及したのではなく、遊びの曲として口伝で広まったタイプの音楽です。この伝播のかたちが、後述する各国の呼び名のばらつきを生んでいます。

口伝で広まる曲には共通の特徴があります。楽譜が読めなくても再現できること、手の形がパターン化していること、そして構成音が少ないことです。この曲はその3条件をすべて満たしています。ピアノの前に座った人が、隣の誰かに「ここに指を置いて、こう動かす」と伝えるだけで成立してしまう。だからこそ100年以上にわたって、教本にも載らないまま生き残ってきました。

注意しておきたいのは、こうした曲は「正しい版」が存在しないという点です。同じ曲でも、地域や世代によって音の数や繰り返しの回数が違うことがあります。誰かの弾き方と自分の弾き方が違っていても、どちらかが間違っているとは限りません。出版された楽譜を使う場合は、その楽譜の編曲者がどう整理したかを基準にすればよい、という考え方で問題ありません。

作者不詳だからこそ、編曲版が次々に生まれた

作曲者が特定されない曲は、演奏解釈や編曲の自由度が高くなります。実際、国内の出版社からは変奏曲集、即興曲、連弾ピース、管楽器版といった形で多様な版が出ています。原曲を「素材」として扱う編曲が成立するのは、誰か特定の作曲家の様式に縛られないからです。

これは学習者にとって利点になります。同じメロディーを入り口にしながら、ドレミ付きの入門版から発表会で弾ける中級・上級の編曲まで、難易度をまたいで教材を選べるからです。曲を変えずに難しさだけを上げられる教材は、実はそう多くありません。

一方で、選ぶときの注意も生まれます。タイトルだけを見て購入すると、想定より難しい編曲を買ってしまうことがあります。この記事の後半では、出版社公式の難易度表記をもとに、どの版がどのレベル向けなのかを整理します。まずは曲の中身がどうなっているかを見ていきましょう。

ドイツでは蚤、フランスではカツレツ?国ごとに違う呼び名

3つの国、3つのまったく違う名前

同じメロディーが、国境を越えるとまったく違う名前で呼ばれています。ドイツでは Der Flohwalzer(蚤のワルツ)、フランスでは Cotelettes(コトレット=カツレツ)、イギリス・アメリカでは Chopsticks(チョップスティック)または「サーカスソング」です。虫、料理、棒状のもの、そして日本では猫。共通点がまるでありません。

📊 国ごとの呼び名を比較
項目 ドイツ フランス イギリス・アメリカ
現地での呼び名 Der Flohwalzer Cotelettes Chopsticks/サーカスソング
日本語にすると 蚤のワルツ カツレツ チョップスティック
楽譜を探すときのキーワード Flohwalzer Cotelettes Chopsticks
税込価格の比較チャート(轟千尋《ねこふんじゃった 550円・開いて使えるピアノ連弾ピ 770円・ねこふんじゃった変奏曲集 1,650円・小原孝 ねこふんじゃった 2,420円)
税込価格の比較(ピアノと音楽の教科書調べ・各公式サイトより、2026年8月時点)

ドイツの「蚤のワルツ」と、原題としての位置づけ

ドイツ語圏の Der Flohwalzer は、この曲の原題として扱われることの多い名前です。ヨーロッパで子ども向けのピアノ曲として流行した経緯を踏まえると、ドイツ語圏が伝播の中心のひとつだった可能性は高いのですが、発祥国そのものが不詳であるため、これを「本来のタイトル」と断定することはできません。あくまで、原題として広く参照されている名前という位置づけです。

学習上の実利としては、この名前を知っておくと海外の楽譜データベースや動画で同じ曲にたどり着けるという点があります。日本語名で検索すると国内の編曲版が中心に出てきますが、Flohwalzer で探すと現地での演奏例が見つかります。同じ曲がどう弾かれているかを複数の演奏で確認しておくと、自分が覚えたパターンが唯一の形ではないことが実感できます。

注意点として、海外の版は音の数や繰り返しの構成が国内の一般的な形と違う場合があります。参考にする分には問題ありませんが、耳で覚えた海外版と手元の楽譜が食い違って混乱することがあります。教材として使う楽譜は1つに決めて、それを基準にしたほうが練習は進みます。

フランスの「カツレツ」、英語圏の「チョップスティック」

フランスでの Cotelettes は、料理のカツレツを指す言葉です。イギリス・アメリカの Chopsticks は箸を意味する語で、あわせてサーカスソングという呼び方も使われます。虫でも猫でもなく、料理と棒。名前の系統がまったく揃っていないことが、この曲の性格をよく表しています。

ここから読み取れるのは、この曲が「作曲者名で呼ばれたことが一度もない」という事実です。クラシックの曲は通常、作曲者と作品番号で同定されます。ところがこの曲は、どの国でも作曲者の名前と結び付けられず、その土地の生活に近い言葉で呼ばれてきました。楽譜より先に、手の動きと音そのものが伝わっていった証拠だと考えられます。

英語圏の人と音楽の話をする機会がある方は、Chopsticks という語が箸ではなく曲名を指す場面がある、と覚えておくと会話が噛み合います。逆に「ねこふんじゃった」を直訳して伝えても、まず通じません。国際的には、この曲は猫の曲ではないのです。

呼び名のばらつきは、口伝で広まった曲の証拠

正式なタイトルを持つ曲であれば、翻訳されても原題の意味が残ります。ベートーヴェンやショパンの作品名が、国が変わっても対応関係を保っているのはそのためです。この曲の呼び名がまったく対応していないのは、翻訳を経ていない、つまり文字ではなく音と手で伝わったからだと説明できます。

この視点は、練習の仕方にも直結します。この曲は「読んで覚える曲」ではなく「位置で覚える曲」として広まってきました。だから楽譜が読めない段階でも弾けてしまう反面、楽譜から入ろうとすると黒鍵の多い調号に面食らうことになります。どちらのアプローチを取るかは、あなたが何を伸ばしたいかで決めるべきです。

ひとつ注意しておきたいのは、口伝の曲は記憶が曖昧になりやすいという点です。子どもの頃に覚えたまま弾いていると、繰り返し回数や終わり方が自己流になっていることがあります。人前で弾く予定があるなら、一度は出版譜で構成を確認しておくと、途中で迷子になる事故を防げます。

日本ではいつ広まった?「みんなのうた」と歌詞をめぐる話

日本ではいつ広まった?「みんなのうた」と歌詞をめぐる話の解説画像

NHK「みんなのうた」で1966年10月〜11月に放映された

日本での普及を語るうえで外せないのが、NHK『みんなのうた』での放映です。1966年10月から11月にかけて放映され、歌唱は天智尊子と東京放送児童合唱団が担当しました。テレビを通じて全国に同じ歌詞とメロディーが届いたことで、地域差のあった通称や歌い方が「ねこふんじゃった」に収束していったと考えられます。

ピアノ曲としての伝播と、歌としての伝播が重なっているのが日本独自の点です。ヨーロッパでは鍵盤の遊び曲として広まりましたが、日本では歌詞の付いた童謡としても記憶されました。鍵盤に触ったことのない人でもメロディーを口ずさめるのは、この放映を経由した普及があったからです。

練習面での意味もあります。歌詞が付いているということは、メロディーの区切りが言葉の区切りと一致しているということです。どこでフレーズが切れるか分からなくなったときは、歌ってみると区切りが確認できます。指だけで覚えていると気づきにくい、フレーズの終わりが見えてきます。

歌詞は一種類ではない——資料によって作詞者の記述が異なる

日本語の歌詞については、1954年に尾上てるしおによる歌詞が作られたという記録があり、一方で現在広く歌われている1975年版の歌詞は阪田寛夫によるものとされています。阪田寛夫は『サッちゃん』『おなかのへるうた』を手掛けた作詞家としても知られる人物です。

ここで正直に書いておくと、資料によって作詞者と年代の記述には異同があります。作者不詳の曲に後から歌詞が付き、さらに別の歌詞が重ねられた曲では、こうした記述の揺れは珍しくありません。当サイトとしては、確認できた複数の記述を並べて示すにとどめ、どれか一つを唯一の正解として断定はしません。

実用上のポイントは、あなたが子どもの頃に覚えた歌詞と、いま販売されている楽譜に載っている歌詞が違う可能性がある、ということです。家族や生徒と一緒に歌うときに食い違いが起きたら、どちらかが間違っているのではなく、版が違うだけかもしれません。楽譜を選ぶ際は、歌詞付きかどうか、どの版の歌詞かを商品ページで確認してください。

💡 押さえておきたいポイント

曲そのものは作者不詳ですが、日本語の歌詞や各社の編曲は、それぞれの作詞者・編曲者による著作物です。歌詞や譜面をコピーして配る、画像で公開するといった扱いはできません。楽譜が必要なときは出版社公式や正規のダウンロード配信サイトから入手してください。ダウンロード配信では、ドレミ付き・歌詞付きの初級アレンジが1曲110円から購入できます。

楽譜と歌詞は正規の販売元から手に入れる

この曲を練習したい人がまず突き当たるのが、楽譜をどう入手するかという問題です。原曲は作者不詳でも、市販されている楽譜は編曲者・出版社の著作物です。当サイトでは譜例や歌詞を掲載しませんので、実際の譜面は出版社公式サイトや正規のダウンロード配信サイトで入手してください。

入門者にとって現実的な選択肢は、ドレミ付き・歌詞付きの初級アレンジです。音符の上に音名が振ってあるため、楽譜に慣れていない段階でも読み進められます。ダウンロード配信サイトでは1曲110円からという価格帯で、複数のアレンジから選べます。紙の曲集を買う前の入り口として費用の負担が小さいのが利点です。

ただし後述するように、ドレミ付きだけで進めると譜読みの力は伸びにくいという副作用があります。最初の1曲を弾き切るための道具と割り切って、次の段階では音名の振られていない譜面に移ることを前提に選ぶのがよいでしょう。

なぜ日本で「誰でも弾ける曲」の代名詞になったのか

「ピアノは弾けないけど、ねこふんじゃったなら弾ける」という言い回しが成立する国は、そう多くありません。これは、テレビによる歌の普及と、鍵盤の遊び曲としての伝播が同時に起きたからです。メロディーを知っている人の母数が大きく、なおかつ手の形を教われば再現できる。この2つが揃うと、曲は爆発的に広がります。

理屈のうえでも、この曲は再現しやすい構造をしています。次章で詳しく見ますが、使われているコードは2つだけで、手の位置もいくつかの型に整理できます。覚える情報量が少ないため、一度覚えると長く忘れません。数十年ぶりに鍵盤に触れた人が、指だけは動くという経験をするのはこのためです。

裏を返せば、この曲が弾けることと、ピアノが弾けることは別の能力です。そこを取り違えると、次の曲に進んだときに「あんなに弾けたのになぜ」と挫折しやすくなります。次章から、構造と練習の話に入ります。

たった2つのコードでできている——曲の構造を分解する

使っているコードは2つだけ

この曲は「2つのコードだけでできている」楽曲です。ハ長調に置き換えた場合であれば、C と G7 の2つで曲全体が成立します。和音の種類が2つしかないということは、左手が担当する役割も2種類しかないということです。覚えることが少ないぶん、初めて両手で弾く曲として機能します。

なぜ2つで足りるのかというと、この曲が主和音と属七の行き来だけで進むからです。緊張を作る和音と、それが解決する和音。この往復は西洋音楽の骨格そのもので、多くの童謡や民謡が同じ構造を持っています。ねこふんじゃったが世界中で自然に受け入れられたのは、耳が予測しやすい進行だからだとも言えます。

練習で活きるのはここからです。左手が迷子になったとき、音符を一つずつ追い直す必要はありません。いま緊張の和音なのか、解決の和音なのか。2択で捉え直せば戻れます。右手のメロディーを歌いながら、左手が2つのうちどちらにいるかを言えるようになると、暗譜が安定します。

📖 用語チェック

コードネーム=和音を英字で表した記号。C は「ド・ミ・ソ」を土台とする和音(主和音)、G7 は「ソ・シ・レ・ファ」を土台とする和音(属七)で、G7 は C に進みたがる性質を持ちます。この2つの行き来だけで、ひとまとまりの音楽として成立します。

調は変イ長調または嬰ヘ長調——黒鍵が並ぶ理由

この曲が実際に演奏される調は、A♭ major(変イ長調)または F♯ major(嬰ヘ長調)とされます。嬰ヘ長調は調号にシャープが並ぶ調で、鍵盤の上では黒鍵が中心になります。子どもの遊び曲なのに黒鍵ばかり使う、という違和感の正体はここにあります。

黒鍵が多いことは、実は弾き手にとって不利ではありません。黒鍵は白鍵より奥にあって幅が狭く、指が乗る位置が物理的に決まります。つまり、手の形さえ作れば音を外しにくい。楽譜が読めない人でも再現できてしまう理由の一つが、この鍵盤の形状にあります。ヨーロッパで遊び曲として広まったのは、この「手で覚えられる」性質と無関係ではないでしょう。

一方で、譜面から入ろうとすると難所になります。調号にシャープが6つ付く嬰ヘ長調は、初級の教本ではまず扱われません。初心者向けの楽譜がハ長調に移調した版を用意しているのはそのためです。ドレミ付き楽譜や入門用の曲集には「ハ長調のねこふんじゃった」といった形で、白鍵中心に書き直された版が収録されています。どちらから入るかは、耳で覚えたいのか譜面で覚えたいのかで選んでください。

右手は3つのポジションを覚えるだけ

この曲の教え方として広く使われているのが、ポジションで覚える方法です。右手は「ねこ」「にゃー」「ぎゃー」といった3種類のポジションを使い、左手もそれに対応するポジションを覚えます。音符を1つずつ読むのではなく、手の形をひとかたまりとして記憶する考え方です。

この方法が有効なのは、複雑に見える曲でもポジションベースで学べば、子どもから大人まで習得できる構成になっているからです。覚える単位が「音」ではなく「形」になるため、記憶量が一気に減ります。実際、ピアノを習っていない人がこの曲だけ弾けるのは、誰かからポジションを口頭で教わったケースがほとんどです。

注意点は、ポジションで覚えると応用が利かないことです。同じ手の形が出てこない曲に移った瞬間、ゼロからのスタートになります。この曲を入り口にして先に進みたいのであれば、ポジションで弾けるようになった後で、同じ箇所を音名で言えるか確認してみてください。「形」と「音名」の両方で説明できるようになれば、次の曲に持ち越せる知識になります。

基本形は初級〜初中級、発展形でクロスハンドと指またぎが出る

難易度の目安は、基本形で初級〜初中級です。ただしこの曲には続きがあります。次のレベルでは「左手は、右手より高い位置がポジションとなります」というクロスハンドの技法が登場し、さらに指またぎ(指くぐり)や指交差といった、より高度なピアノ技法が組み込まれていきます。

つまり、この曲は「簡単な曲」ではなく「簡単な入り口から難所まで一続きになっている曲」です。多くの人が途中で崩れるのは、実力が足りないからではなく、気づかないうちに次の段階の技法が要求される場所に入っているからです。ここを知っているかどうかで、練習の組み立てが変わります。

📋 曲のプロフィールカード
原タイトル・作曲者 Flohwalzer(蚤のワルツ)/作曲者不詳・発祥地不詳
調・使用コード A♭ major(変イ長調)または F♯ major(嬰ヘ長調)/コードは2つだけ(ハ長調ならCとG7)
難易度の目安 基本形は初級〜初中級。発展形でクロスハンド・指またぎ・指交差が登場
向いている人・用途 初めて両手で弾く曲を探している人/ブランクから再開する人/連弾や発表会の小品を探している人

両手で通すまでの練習を、正しい順番に並べ直す

練習の順番を変えるだけで、止まる場所が消える

この曲でつまずく人の多くは、練習量ではなく順番の問題を抱えています。いきなり両手で、しかも本来のテンポで弾こうとすると、手の位置の確認と指の動きとテンポ維持を同時に処理することになり、脳の負荷が上限を超えます。結果として毎回同じ場所で止まる、という状態が固定されます。

🎼 練習の手順
Step1:音を出さずに、右手のポジションを3種類とも確認する。どの指がどの鍵盤に乗るかを、鍵盤の上に置くだけで確かめる
Step2:片手ずつ、最後まで止まらずに通せる速さで弾く。速さの基準は「次の音の位置を、鳴らす前に目で確認できる」こと
Step3:両手を合わせる。合わせる段階でもStep2の速さを維持し、テンポを上げるのは通し切れるようになってから最後に行う

この順番には理由があります。手の位置の記憶が固まる前にテンポを上げると、間違った位置のまま速さだけが身についてしまい、後から直すのに何倍も時間がかかります。急がば回れではなく、単純に処理の順序として、位置→片手→両手→テンポの順でしか安定しません。

右手は「動かす」より「置き直す」意識で

右手のポジションは3種類しかありません。ということは、右手の仕事の大半は「指を速く動かすこと」ではなく「決められた位置に手を置き直すこと」です。ここを取り違えて、指を素早く動かそうとすると、手首が固まって音が硬くなります。

具体的には、ポジションが切り替わる瞬間に注目してください。前のポジションの最後の音を弾いた直後、手全体を次の位置へ移動させる時間が必要です。この移動が間に合っていないと、次のポジションの最初の音が遅れたり、隣の鍵盤を叩いたりします。止まる場所は、たいていポジションの切り替え地点です。

練習法としては、切り替えの2音だけを取り出して、ゆっくり往復させるのが有効です。前のポジションの最後の音と、次のポジションの最初の音。この2音を、手の移動を見ながら繰り返します。曲を頭から通す練習を10回やるより、この2音を集中的にさらったほうが早く直ります。

左手が右手より高い位置に来る——クロスハンドの正体

この曲の発展形では、左手が右手より高い位置をポジションとする場面が出てきます。これがクロスハンド(両手を交差させる技法)です。左手は低音側、右手は高音側という思い込みのままだと、この場面で手がぶつかって混乱します。

対処は単純で、交差する瞬間に「どちらの手を上に通すか」を先に決めておくことです。上を通る手と下を通る手が毎回入れ替わると、腕の高さが安定しません。一度決めたら、同じ通し方で毎回練習します。決めずに弾いていると、本番で手がぶつかります。

さらに先の段階では、指またぎ(指くぐり)や指交差が登場します。ここは音階練習で使うのと同じ技法なので、この曲だけの特殊技術ではありません。逆に言えば、この曲でクロスハンドと指またぎを練習しておくと、後の曲でそのまま使えます。遊びの曲に見えて、技法の入り口としては筋のいい教材です。

テンポを上げるのは最後、が原則

この曲は速く弾くと格好がつくため、早い段階からテンポを上げたくなります。しかし速く弾く練習から入ると、指と手首が力み、脱力できないまま形が固まります。固まった状態から速度を上げようとしても頭打ちになり、しかも音がすべて同じ強さになって、聴いていて平坦な演奏になります。

順序としては、止まらずに通せる速さを見つける→その速さで数回続けて通せるようにする→少しだけ速くする、の繰り返しです。目安は、通している最中に「次はどこだったか」と考えずに済むかどうか。考える時間が必要な速さは、まだ上げる段階ではありません。

速くする以外の仕上げ方もあります。同じテンポのまま、繰り返しの2回目だけ音量を落とす、フレーズの終わりをわずかに緩める。こうした処理を入れると、テンポを上げなくても曲として聴かせられます。人前で弾く予定があるなら、速さより「終わりが揃っていること」のほうが印象に残ります。

弾けているのに崩れる人の共通点——原因は3つに絞れる

失敗パターン①:右手だけが先に走り、左手が置き去りになる

最も多いのが、右手のメロディーだけを繰り返し練習してしまうケースです。メロディーは耳で知っているので気持ちよく弾けます。その結果、右手だけが本来のテンポで動けるようになり、左手はまだ位置を探している状態のまま、両手を合わせる段階に入ってしまいます。

原因は練習配分です。左手が担当しているのは2つのコードの往復ですから、覚える情報自体は右手より少ない。にもかかわらず遅れるのは、単純に触った回数が足りていないからです。対策は、左手だけを右手と同じ回数さらうこと。左手だけで最後まで通せるようになってから合わせると、この問題はほぼ消えます。

⚠️ つまずきやすいポイント

両手が合わないとき、原因は「両手の練習不足」ではなく「片手ずつの完成度の差」であることがほとんどです。合わない箇所を両手で繰り返しても差は埋まりません。遅れているほうの手だけを取り出し、その手が単独で止まらず通せるところまで戻してください。合わせるのはその後です。

失敗パターン②:指番号を決めずに、音の場所だけで覚える

ポジションで覚える方法には落とし穴があります。「この鍵盤とこの鍵盤を押す」という位置の記憶だけで進めると、どの指で押すかが毎回変わってしまうのです。ゆっくり弾いているうちは何とかなりますが、速度を上げた瞬間、指が足りなくなって崩れます。

特にクロスハンドや指またぎが出てくる箇所で顕在化します。前の音をどの指で弾いたかによって、次に使える指が変わるからです。指番号が決まっていないと、その場の成り行きで指を選ぶことになり、うまくいく日といかない日が出てきます。本番で崩れるのは、たいていこのタイプです。

対策は、最初に指番号を決めて書き込み、以後は変えないことです。楽譜に運指が印刷されているなら、まずはその通りに弾いてください。自分の手に合わない箇所だけを変え、変えたら書き込む。「毎回同じ指で弾く」という一点を守るだけで、安定度は大きく変わります。

実は、この曲が弾けても譜読みの力は伸びません

意外と知られていないのですが、ねこふんじゃったを弾けるようになっても、楽譜を読む力はほとんど伸びません。理由は明快で、この曲がポジションと耳で再現できてしまう曲だからです。音符を1つずつ読み取る作業を経由しなくても完成してしまうため、譜読みの筋肉が使われないまま終わります。

ドレミ付きの楽譜を使うと、この傾向はさらに強まります。音名が書いてあるぶん最初の1曲は早く弾けますが、音符の高さと鍵盤の位置を結び付ける経験が積まれません。初見が苦手な人の原因が音符ではなく調号と拍子の把握にあることを考えると、音名だけを追う練習は、その苦手をそのまま温存してしまいます。

だからといってドレミ付きが悪いわけではありません。使い分けの問題です。「まず1曲弾けた状態を作る」段階ではドレミ付きが有効で、「次の曲へ進む力を付ける」段階では音名の書かれていない譜面に移る。この曲を入り口として使うなら、卒業のタイミングをあらかじめ決めておくのが合理的です。

手や腕に痛みが出たときの考え方

Q 練習していると手首や前腕が痛くなります。弾き方が悪いのでしょうか?
A 痛みが出ている状態で練習を続けるのは避けてください。当サイトは症状の原因を判断できる立場にありませんので、原因の特定や治し方をここで断定することはしません。まずは練習を中断し、痛みが続く場合は医療機関に相談してください。そのうえで、演奏面で見直せる点としては、テンポを上げすぎていないか、同じ箇所を長時間繰り返していないか、肩や肘が上がったまま固まっていないか、といった練習の組み立てがあります。

この曲は同じ動きの繰り返しが多く、短時間で何度も通せてしまいます。そのぶん、同じ筋肉を同じ角度で使い続けやすい構造です。1回の練習で長時間さらうより、短い時間に分けて複数回に散らすほうが、身体への負担は軽くなります。

また、鍵盤の重さが手に合っていない場合もあります。楽器を選べる状況にあるなら、弾いたときに指先へ返ってくる感触を確認してみてください。ただし楽器の買い替えを急ぐ必要はありません。まずはテンポと練習時間の配分を見直すほうが、費用をかけずに改善できる余地が大きいはずです。

楽譜は550円から2,750円まで——難易度別の選び方

まず、自分がどの段階にいるかを決める

この曲の楽譜は、国内主要出版社から多数出ています。ヤマハの検索結果だけでも28種類以上の版が並び、ピアノソロ・連弾に加えて管楽器版やその他楽器版まで揃っています。選択肢が多いのは利点ですが、難易度を確認せずに買うと手に負えない版に当たります。

📋 難易度別ラインナップの整理
初級(入門) ドレミ付き・歌詞付きの版。ダウンロード配信で1曲110円から。楽譜に慣れていない段階向け
初中級 連弾ピース(770円)。プリモはブルクミュラー前半程度、セコンドはブルクミュラー後半程度
中級 ピアノソロ/連弾の両対応で12曲収載の曲集(2,420円)。アレンジを弾き分けたい人向け
上級・他楽器 上級の連弾譜(2,750円)、管楽器版(2,200〜2,420円・初中級)、リコーダー/オカリナ版(2,200円・初中級)

判断の基準はシンプルです。音名が書かれていないと譜面が追えないなら初級、教本でブルクミュラーに入っているなら初中級の連弾、両手で通せていて表現を変えて弾きたいなら中級の曲集。楽器店の在庫を見て回る前に、この3択のどこにいるかを決めておくと迷いません。

出版社別に3点を比べる(ピアノと音楽の教科書調べ)

ここでは、出版社公式サイトに掲載されている書誌情報をもとに、代表的な3点を横並びで整理しました。価格・ページ数・難易度はすべて各社の公式商品ページに記載されている値です。

📊 出版社公式情報で比較(ピアノと音楽の教科書調べ)
項目 ねこふんじゃった変奏曲集 小原孝 ねこふんじゃった SPECIAL 轟千尋《ねこふんじゃった》即興曲
出版社 全音楽譜出版社 ヤマハミュージックエンタテインメント 全音楽譜出版社
税込価格 1,650円 2,420円 550円
ページ数・収録 32頁/11の変奏・CD付き 120頁/12曲収載 8頁/単曲のピース
難易度・編成 初級〜中級/ピアノソロ(小さい手のための工夫あり) 中級/ピアノソロ・連弾の両方 発表会・演奏会向けの編曲/ピアノソロ

変奏曲集は、テーマが少しずつ変わっていく11の変奏で構成された演奏会用のピースです。弾く場所さえ覚えれば覚えただけ弾けるように設計されており、比較的小さい手のための工夫がされています。CD付きなので、譜読みの前に完成形を耳で確認できるのも利点です。詳細は全音楽譜出版社の商品ページで確認できます(ISBN 978-4-11-170325-8、2003年3月15日発行、菊倍判32頁)。

中級の曲集は120頁のボリュームで、テーマからメドレーまで12曲を収載しています。ロックンロール調、ブギウギ調といった味付けの違うアレンジが並び、クラシックの名曲を素材にしたアレンジも併載されています。ピアノソロと連弾の両方に対応しているため、1冊で用途が広いのが特徴です。

単曲のピースは550円と手を出しやすく、8頁の全音ピアノピース(PP-580、2018年5月15日発売)です。お洒落な雰囲気、ジャジーなハーモニー、優雅なワルツ風と、馴染みのメロディーが多彩な表情で楽しめる編曲で、発表会や演奏会向けの1曲を探しているときの選択肢になります。

連弾・他楽器版という選び方もある

一人で弾くとは限りません。連弾ピースは税込770円、菊倍判縦の4頁で、観音開きにして4面に広げて使える仕様です。譜めくりのいらない連弾パート譜タイプなので、演奏中に集中を切らさずに済みます。レモン色の厚みのある楽譜用紙が使われており、レッスンや発表会での使用を想定した作りです。プリモがブルクミュラー前半程度、セコンドがブルクミュラー後半程度という難易度設定なので、親子や生徒同士で実力差があっても組めます。ヤマハミュージックの商品ページで仕様を確認できます。

ピアノ以外の編成も豊富です。トランペット・アルトサックス・フルート版は2,200〜2,420円で初中級、リコーダー・オカリナ版は2,200円で初中級。ほかに鍵盤ハーモニカ、ミュージックベル、エレクトーン、カリンバの版も提供されています。学校行事やアンサンブルで使う場合は、こちらから探すほうが早いでしょう。

変わり種としては、20曲収録の曲集もあります。「はじめてピアノを弾く人のために ハ長調のねこふんじゃった」という入門レベルの編成から、ジプシーダンス、インド、ペルシャ、イタリア、パリ、沖縄といった各国・各文化の色を反映したアレンジ、さらに「ニューオーリンズのねこ」「沖縄のねこ」などの連弾編成まで並びます。菊倍判64頁で本体1,200円(税別)。1冊で難易度をまたいで長く使いたい人に向きます。詳細は出版社の商品ページを参照してください。

タイプ別・最初の1冊の選び方

楽譜を初めて買う大人の再開組であれば、いきなり曲集を買わず、ドレミ付きのダウンロード版から始めるのが費用対効果の面で合理的です。1曲110円からなので、通しで弾けるかどうかを確認してから紙の楽譜に進めます。ここで手応えがあれば、次は音名の書かれていない版に移ってください。

お子さんのレッスンや発表会で使うなら、連弾ピース770円が扱いやすい選択です。プリモとセコンドで難易度が分かれているため、大人が伴奏側に回れば、始めたばかりの子どもとも合わせられます。譜めくりが不要な仕様は、本番での事故を1つ減らしてくれます。

すでに両手で通せていて「人前で弾ける1曲」に育てたい人は、単曲ピース550円か、11の変奏が入った1,650円の曲集が候補になります。前者は1曲を仕上げる方向、後者は変奏を積み上げていく方向です。演奏時間をどれくらい取りたいかで決めるとよいでしょう。なお価格は各社の公式商品ページの記載に基づくもので、改訂や在庫状況によって変わることがあります。

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まとめ:作者不詳の遊び曲を、次の1曲につなげるために

🎹 この記事の結論

原題は「蚤のワルツ」、作曲者不詳の曲です。位置→片手→両手→テンポの順で練習すれば止まる場所は消えます。

✅ 要点チェック
  • 原題:Flohwalzer=蚤のワルツ。猫は日本語名だけ
  • 作曲者:不詳。決定的証拠のある説はない
  • 構造:コードは2つだけ。手は形で覚える
  • つまずき:原因は片手ずつの完成度の差と運指
  • 楽譜:初級110円から、上級連弾2,750円まで

この曲は、作曲者も発祥国も分からないまま100年以上弾かれ続けてきた、珍しい経歴を持つ音楽です。ドイツでは蚤、フランスではカツレツ、英語圏ではチョップスティック。誰の作品としても呼ばれなかったからこそ、国境を越えて自由に広まりました。日本では1966年10月から11月のNHK『みんなのうた』放映を経て、歌としても定着しています。中身を見れば、使っているコードは2つだけ、手の形はいくつかのポジションに整理でき、基本形の難易度は初級〜初中級。それでいて発展形にはクロスハンドや指またぎが仕込まれていて、練習曲としての奥行きもあります。

今日からできる最初の一歩は、両手を合わせる練習をいったん止めて、遅れているほうの手だけを単独で最後まで通してみることです。ほとんどの場合、それは左手です。左手だけで止まらず通せるようになってから合わせ直すと、毎回止まっていた場所が静かに消えます。

※本記事の価格・仕様は各出版社の公式商品ページの記載に基づきます。改訂・価格改定・在庫状況により変更される場合がありますので、購入前に各公式サイトでご確認ください。作詞者や成立年代については資料により記述に異同があります。

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ピアノと音楽の教科書編集部です。テーマに関する基礎知識や選び方を、公式情報など確認できる情報をもとに編集しています。掲載後も定期的に見直し、変更があれば更新します。

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