楽譜を読んでいて、曲の途中で急に「D.S.」と書かれていて手が止まった経験はありませんか。あるいは、リピート記号の点が左右どちらを向いているのか分からなくなって、結局録音を聴いて演奏順を確認した、という方も多いはずです。繰り返し記号は、譜面のなかで唯一「読む順番そのもの」を書き換える記号なので、ここでつまずくと譜読みが一歩も進みません。
結論から言うと、繰り返し記号は6種類しかありません。リピート記号、1番カッコ・2番カッコ、ダ・カーポ(D.C.)、ダル・セーニョ(D.S.)、フィーネ(Fine)、コーダ(Coda)。この6つの役割を「どこへ飛ぶか」「どこで終わるか」の2軸で整理すれば、複合的に組み合わされた譜面でも演奏順を自力で追えるようになります。
この記事では、6種類それぞれの意味と演奏ルールを、ヤマハの公式解説に沿って確認しながら、初心者が確実につまずく「2回目の扱い」を中心に整理します。記号を暗記するのではなく、なぜその順で演奏することになるのかという理屈から入るので、初めて見る楽譜でも順番を組み立てられるようになります。
この記事でわかることは4つです。①繰り返し記号6種類それぞれの「飛び先」と「終わり方」/②リピート記号の点の向きが示す2つのルール/③D.C.とD.S.の決定的な違い(戻る先が固定か指定か)/④1回目と2回目で読み方が変わる記号の見分け方。
繰り返し記号は「楽譜を短くするための仕組み」だと考えると読める

そもそも繰り返し記号は何のために存在するのか
繰り返し記号の目的は装飾でも表現指示でもなく、単純に「紙面の節約」です。反復記号・略記号について、音楽理論の解説では「楽曲内の繰り返しや、同じ記号の表記を省略して表す言葉や記号」であり「これらは楽譜をコンパクトにまとめ、見やすくするために使われます」と説明されています。つまり繰り返し記号は、同じ音符を2回書く代わりに置かれた「省略の合図」なのです。
この前提を理解しておくと、記号の解釈で迷ったときの判断基準が持てます。繰り返し記号が示しているのは「音楽をどう表現するか」ではなく「どの小節をもう一度読むか」という機械的な指示だけです。強弱記号や速度記号と違って解釈の余地はありません。曲を演奏したときに鳴る音は、繰り返し記号を展開して全部書き出した楽譜とまったく同じになります。
独学の方がつまずきやすいのは、繰り返し記号を「表現の一種」として捉えてしまうケースです。「2回目は少し弱く弾くのかな」と考え始めると、記号本来の指示(どこに戻るか)が頭から抜けてしまいます。2回目の強弱をどうするかは繰り返し記号とは別の問題で、そこに指示があれば別途 p や f として書かれているはずです。まずは音の順番だけを確定させてから、表現を考える順序で進めてください。
反復記号と略記号は別のグループとして数える
繰り返しに関わる記号は、大きく反復記号と略記号の2グループに分かれます。反復記号は6種類、略記号は5種類という分類が一般的です。この記事で扱うのは前者の反復記号6種類、つまりリピート、1番カッコ・2番カッコ、ダ・カーポ、ダル・セーニョ、フィーネ、コーダです。
略記号のほうは、同じ小節や同じ音型の繰り返しを短く書くための記号群で、小節をまるごと繰り返す記号(斜線と2つの点)や、トレモロを表す斜線などが含まれます。こちらは演奏の順番を変えるものではなく、その小節の中身を省略しているだけです。役割がまったく違うので、混同しないよう分けて覚えてください。
初心者が「繰り返し記号が多すぎて覚えられない」と感じる原因の多くは、この2グループを一緒に暗記しようとしていることにあります。演奏順を変える6種類だけを先に固めれば、譜読みで止まる場面はほとんど解消します。略記号は出てきたときに1つずつ確認すれば十分です。
飛び先と終わり方の2軸で6種類を整理する
6種類を丸暗記する必要はありません。各記号を「どこへ飛ぶか」と「どこで終わるか」の2つの情報に分解すると、機能がはっきりします。リピート記号とカッコ類は近距離のジャンプ、D.C.とD.S.は遠距離のジャンプ、FineとCodaは終わり方の指定、という3層構造です。
| 記号 | 役割の種類 | どこへ飛ぶか | 終わり方への関与 |
|---|---|---|---|
| リピート記号 | 近距離ジャンプ | 前のリピート記号、なければ曲の始め | なし |
| 1番・2番カッコ | 分岐の指定 | 飛ばない(読む区間を切り替える) | なし |
| D.C. | 遠距離ジャンプ | 楽曲の最初(固定) | Fineとセットで終わる |
| D.S. | 遠距離ジャンプ | セーニョ記号の位置(指定) | Fineとセットで終わる |
| Fine | 終止の指定 | 飛ばない | ここで曲が終わる |
| Coda | 終結部へのジャンプ | コーダ記号の位置 | 終結部へ進んで終わる |
この表を見ると、6種類のうち実際に「離れた場所へ飛ぶ」のは4つだけで、残りの2つ(カッコとFine)はその場での分岐や終止を示しているだけだと分かります。譜面で迷ったときは、まず自分が今どのタイプの記号を見ているのかを判定してください。それだけで解釈の候補が大きく絞れます。
リピート記号は点の向きだけで意味が決まる
二重線の内側に点が2つあれば、それがリピート記号
リピート記号は「楽譜の同じ内容をくり返し反復して演奏することを指示する記号」で、ヤマハの解説では「二重線の内側に2つの点があります」と説明されています。つまり見分け方は形状だけで決まります。二重線があっても点がなければ単なる複縦線(区切りの線)で、繰り返しの指示ではありません。
点は五線の内側、真ん中2つの間(第2間と第3間)に置かれます。この位置は五線の中心を挟む形なので、印刷が小さい譜面でも縦の位置で判別できます。ポップスのバンドスコアなど小さめの譜面で見落としがちなので、複縦線を見つけたら点の有無を確認する癖をつけておくと安全です。
そして重要なのは、点が線の左側にあるか右側にあるかで意味が変わるという点です。同じ形の記号なのに、点の向きで「ここから繰り返す」と「ここまで繰り返す」が入れ替わります。この左右の区別が、リピート記号でつまずく人のほぼすべての原因です。
右側の点と左側の点で指す方向が逆になる
ヤマハの解説では、点の位置による違いがこう整理されています。「右側の点:その位置より前のリピート記号に戻る。左側の点:直前のリピート記号に戻る(ない場合は曲の始めから)。特別な指定がなければ1回だけ繰り返す」。文章だけだと分かりにくいので、実務的な読み方に言い換えます。
まず、点が二重線の左側にある記号(つまり演奏者から見て線を通り過ぎた後に点が現れる形)が「繰り返しの終点」です。ここに到達したら前へ戻ります。戻る先は、それより前に置かれた対になるリピート記号で、そういう記号が1つもなければ曲の冒頭まで戻ります。つまり対になる記号がないケースは、曲全体をもう一度演奏するという意味になります。
この「対がなければ冒頭へ」というルールがあるおかげで、譜面には終点側のリピート記号だけが1つ書かれていることがよくあります。童謡や簡単なアレンジ譜では、曲の最後に終点側のリピート記号が1つあるだけで「1番と2番を歌う」ことを表しているケースが典型例です。始点の記号を探して見つからず混乱したら、冒頭に戻ると考えて問題ありません。
複縦線=五線に引かれた2本の細い縦線。曲の区切り(大きな段落の変わり目や調号・拍子の変更点)を示すだけで、繰り返しの指示ではありません。点がついて初めてリピート記号になります。終止線(細い線+太い線)とも別物で、こちらは曲の終わりを示します。
繰り返す回数は「特別な指定がなければ1回だけ」
リピート記号を見たとき、何回繰り返せばいいのか迷う方がいますが、原則は明快です。特別な指定がなければ1回だけ繰り返します。つまり該当区間は合計2回演奏されることになります。3回以上演奏させたい場合は、譜面に「×3」「3 times」のような回数指定が書き添えられます。
具体例で確認します。A・B・C・Dという4つの区間があり、Dの終わりに終点側のリピート記号、Cの頭に始点側のリピート記号がある譜面を考えます。演奏順は A→B→C→D で終点に達し、Cに戻って C→D と進み、そのまま先へ進みます。結果として A→B→C→D→C→D という並びになります。
ここで初心者がやりがちな失敗が、「戻ってきた2回目でも、また終点のリピート記号に従ってもう一度戻ってしまう」という無限ループです。リピート記号は繰り返しが済んだら効力を失うと考えてください。2周目に同じ記号へ到達したときは、記号を無視して先へ進みます。演奏順を紙に書き出して確認すると、この感覚がつかめます。
失敗パターンその1:終点のリピート記号で毎回戻ってしまい、曲が終わらなくなる。原因は「記号は何度でも有効」と誤解していることです。繰り返し記号は一度実行したら消化済みとして扱い、2回目の通過では無視します。譜面に鉛筆で小さく「2回目は素通り」と書き込んでおくと、練習中に迷いません。
1番カッコ・2番カッコは「後半だけ違う」ときの分岐装置

使われるのは繰り返しの終わり方だけが変わる場面
1番カッコ・2番カッコは、ヤマハの解説によれば「繰り返したい部分の後半だけが違う場合」に使用します。歌ものを思い浮かべると分かりやすく、1番の歌詞の終わりと2番の歌詞の終わりでメロディーが少し違う、というケースがまさにこれです。前半は共通なので1回だけ書き、違う部分だけを分岐させて併記しているわけです。
表記は五線の上にかぎ括弧が引かれ、その左端に数字が入ります。1番カッコなら「1」、2番カッコなら「2」です。カッコが覆っている範囲が、その回に演奏する小節を示しています。カッコの範囲は1小節とは限らず、4小節や8小節にわたることもあります。
なお、異なるエンディングが3通り以上ある曲では3番カッコも使われます。ポップスのアレンジ譜で、1番・2番・大サビの後で終わり方が3通りに分かれる場合などです。番号が増えても考え方は同じで、n回目にはn番カッコを読む、というルールが適用されます。
2回目に1番カッコを飛ばすのが最大のポイント
演奏ルールはヤマハの解説にこう明記されています。1番カッコは「1回目のみ演奏し、2回目は飛ばす。2回目では1カッコを飛ばすのがポイントです」。2番カッコは2回目のみ演奏し、1番カッコをスキップして実行します。つまり1回目と2回目で読む小節が入れ替わります。
具体的な演奏順を追ってみます。A→B→C の後に1番カッコとして A→B が置かれ、その後ろに2番カッコとして D→E が続く譜面の場合、演奏順は A→B→C→A→B→D→E となります。1回目は1番カッコの中身(A→B)まで演奏して戻り、2回目は1番カッコを丸ごと飛ばして2番カッコ(D→E)へ進むわけです。
ここで理解しておきたいのは、1番カッコの終わりには必ず終点側のリピート記号が置かれているという構造です。カッコは単独では機能せず、リピート記号とセットで初めて分岐が成立します。譜面上でカッコを見つけたら、その終わりのリピート記号がどこにあるかを先に確認してください。戻る先が確定して初めて、演奏順が組み立てられます。
カッコの直前で切れ目を作らないのが演奏上のコツ
譜読みの順番が分かっても、実際に弾くと2番カッコへ移る瞬間に音楽が途切れる、という現象がよく起きます。原因は、1番カッコの最後の小節と2番カッコの最初の小節が譜面上で離れた位置にあるため、目の移動が間に合っていないことです。音符が読めていないのではなく、視線の移動距離の問題です。
対策はシンプルで、2番カッコへ入る接続部分だけを取り出して繰り返し練習します。1番カッコに入る手前の小節から、2番カッコの2小節目までを1つのフレーズとして通す練習です。ここだけを10回ほど通すと、視線が跳ぶタイミングが体に入ります。曲全体を通して練習するより、接続部分の局所練習のほうが効率的です。
もう1つの対策として、譜面に矢印を書き込む方法があります。1番カッコの終わりから戻る先へ矢印、2番カッコへの分岐にも矢印を引いておくと、初見に近い状態でも視線が迷いません。市販の楽譜に書き込むことに抵抗を感じる方もいますが、譜読みの補助線は演奏の精度に直結します。鉛筆で書けば後から消せます。

音符の高さは読めるようになったのに、音符以外の細かい記号で手が止まる。独学でピアノを進めていると、この段階で足踏みする人がかなりの割合で出ます。五線の上に散らば…
D.C.とD.S.は「戻る先が固定か指定か」で分かれる
ダ・カーポは曲の最初に戻る
D.C.はイタリア語の da capo の略で、ヤマハの解説では「”~から”という意味の「da」と”先頭”を意味する「capo」から成ります」と説明されています。語源のとおり、意味は「先頭から」です。演奏指示としては「この記号に到達したら、楽曲の最初に戻って演奏を再開します。戻った後は「Fine」で終了します」となります。
ここで重要なのは、D.C.の戻り先が固定されているという点です。どんな譜面であっても、D.C.が示す戻り先は楽曲の1小節目です。戻る場所を探す必要がないので、6種類の記号のなかでは最も判断が簡単な記号だと言えます。
D.C.は曲の終盤、最後の小節の下や横に書かれるのが一般的です。演奏者としては「ここで一度終わったように見えるが、まだ終わりではない」という合図として受け取ります。初見演奏で最後の小節まで来て手を止めてしまう失敗は、この記号の見落としが原因であることが多いので、譜面の最終小節付近は必ず記号の有無を確認してください。
ダル・セーニョはセーニョ記号の位置に戻る
D.S.は dal segno の略で、ヤマハの解説では「”~から”を意味する「dal」と”サイン、印”を示す「segno」で構成されています」とされています。演奏指示は「この記号に到達したら、”§”(セーニョ)という特殊な印まで戻って演奏を再開します。その後「Fine」で終了となります」。
D.C.との決定的な違いは、戻る先です。D.C.は常に曲全体の最初に戻りますが、D.S.はセーニョ記号で指定された特定の位置に戻ります。つまり、曲の途中から繰り返したいときに使う記号がD.S.です。イントロを飛ばして2番の頭から繰り返す、といった構成はD.S.でなければ表現できません。
セーニョ記号は「§」に似た形の記号で、斜線に2つの点が添えられた独特の形をしています。譜面上では小節の上部、五線の外側に置かれるのが通例です。D.S.を見つけたら、譜面を前へさかのぼってこのセーニョ記号を探す作業が必要になります。曲の中盤にあることが多いので、譜面の真ん中あたりから見ていくと早く見つかります。
| 分類・方式 | D.C.=ダ・カーポ(遠距離ジャンプ)/D.S.=ダル・セーニョ(遠距離ジャンプ) |
| 原語と成り立ち | D.C.=da capo(da=~から/capo=先頭)/D.S.=dal segno(dal=~から/segno=サイン、印) |
| 戻る先の違い | D.C.=楽曲の最初(固定)/D.S.=セーニョ記号の位置(譜面ごとに指定) |
| 向いている構成 | D.C.=曲全体をもう一度演奏する三部形式など/D.S.=イントロを飛ばして途中から繰り返す構成 |
D.S.が使われる曲構成の実例で理解する
D.S.が必要になる典型は、イントロがある曲です。イントロ→Aメロ→Bメロ→サビと進んで、2周目はイントロを演奏せずAメロから始めたい。この場合、Aメロの頭にセーニョ記号を置き、サビの終わりにD.S.を書きます。D.C.では必ずイントロから演奏し直すことになるので、この構成は表現できません。
クラシックでも、序奏つきの楽曲や、メヌエットのトリオから主部へ戻る場面などでD.S.が使われることがあります。ただしクラシックでは「Menuetto D.C.」のようにD.C.が使われる例のほうが目立ちます。これは曲全体を最初から再現する三部形式(A-B-A)が様式として定着しているためです。
ここで意外と知られていないのが、D.C.とD.S.の使い分けは作曲家の好みではなく、曲の構造そのものを反映しているという点です。楽譜にD.S.が書かれていたら、その曲は「途中から繰り返す構造」を持っているということ。逆にD.C.なら「全体を再現する構造」です。記号を読むことは、そのまま曲の形式を読むことでもあります。演奏解釈を考えるときの手がかりにもなるので、記号から構造を推測する視点を持っておくと譜読みが深まります。
FineとCodaは「終わり方」を決める2つの記号
Fineは楽曲の終止位置を示す
Fine(フィーネ)は、繰り返して戻ってきたときに曲が終わる場所を示す記号です。D.C.の解説にあるとおり「戻った後は「Fine」で終了します」。D.S.も同様に「その後「Fine」で終了となります」とされています。つまりFineは、D.C.やD.S.とセットで働く終止の指定です。
Fineは通常、曲の途中の小節に書かれます。楽譜の最後の小節ではなく中盤に「Fine」と書かれているのを見て混乱する方がいますが、これは正しい配置です。1周目はここを通過して先へ進み、D.C.やD.S.で戻ってきた2周目にこの位置で曲を終える、という二段構えになっています。
Fineが置かれた小節には、複縦線または終止線が併記されているのが一般的です。この線がヒントになるので、譜面の途中に終止線らしき線を見つけたら、その上に Fine の文字がないか確認してください。線だけが目に入って「なぜここに終わりの線が」と戸惑うケースはよくあります。
初回はFineを無視して先へ進むのが原則
ここが繰り返し記号で最も間違えやすい部分です。D.C.の解説では「初回はFineをスキップし、D.C.の指示まで演奏を続ける」とされています。D.S.についても「初回はセーニョマーク、to Coda、Fineをスキップするのが原則」と明記されています。1回目の通過では、これらの記号は存在しないものとして扱います。
なぜこのルールなのかというと、1周目でFineに従って止まってしまったら、そもそもD.C.やD.S.まで到達できないからです。記号は演奏の進行を前提に設計されているので、順番に読んでいけば矛盾しません。「1周目は素通り、2周目に効力を持つ」と覚えておけば十分です。
同じ原則が「to Coda」にも適用されます。D.S.の解説では、初回にスキップする対象としてセーニョマーク・to Coda・Fineの3つが挙げられています。セーニョマークをスキップするというのは、1周目にセーニョ記号を通過してもそこで何も起きない、という意味です。セーニョ記号は「戻ってくる目印」であって、通過時に何かを指示する記号ではありません。
失敗パターンその2:1周目でFineを見つけて曲を終わらせてしまい、D.S.以降を一度も演奏しないまま「弾けた」と思い込む。原因は「Fine=終わり」という語感だけで判断していることです。Fineは無条件の終止ではなく、D.C.やD.S.から戻ってきたときにだけ有効になる条件つきの終止だと理解してください。
Codaは終結部へ飛ぶための2つ1組の記号
Coda(コーダ)はイタリア語で終結部、しっぽを意味する語です。記号としては「Coda」の文字、または円に十字を重ねた「⊕」の形で表記されます。役割は、複数のコーダ記号を使ってジャンプし、指定位置から演奏することを指示することです。
重要なのは、コーダ記号が必ず2箇所に置かれるという構造です。曲の途中に置かれる1つ目が「to Coda」(ここから飛ぶ)、終結部の頭に置かれる2つ目が「Coda」(ここへ着地する)。1回目をトゥー・コーダと呼び、2回目をコーダと呼ぶ、という区別です。片方だけでは機能しないので、譜面でコーダ記号を見つけたらもう片方を探してください。
そして「to Coda」は、繰り返す前の1回目では無視され、繰り返した後にコーダに飛びます。ここもFineと同じ「1周目は素通り」の原則です。D.S.やD.C.と組み合わせて使われることが多く、その場合は戻った後にコーダへ進むという流れになります。つまり、戻る→to Codaで飛ぶ→Codaから終結部を演奏、という3段階です。
複数の記号が組み合わさった譜面の読み解き方
D.S. al Coda が最も出現頻度が高い組み合わせ
ポップスや吹奏楽の譜面で頻出するのが、D.S.とCodaの組み合わせです。譜面には「D.S. al Coda」と書かれます。al は「~まで」を意味するので、直訳すると「セーニョからコーダまで」となります。演奏順は、D.S.でセーニョ記号へ戻り、そこから演奏を再開し、to Coda に到達したらコーダ記号の位置へ飛んで終結部を演奏する、という流れです。
この組み合わせが多用される理由は、曲の構成として自然だからです。2周目は途中まで1周目と同じ内容を演奏し、最後だけ別のエンディングに差し替える。1番カッコ・2番カッコと発想は同じですが、飛ぶ距離が長い場合にはカッコよりコーダのほうが譜面が読みやすくなります。
読み解く手順としては、まず譜面全体を眺めてセーニョ記号・to Coda・Coda の3箇所に印をつけます。次に、D.S.の位置からセーニョへ矢印、to Coda から Coda へ矢印を引きます。矢印が2本引ければ演奏順は確定です。音を出す前にこの作業を済ませておくと、通し練習で止まりません。
D.C. al Fine と D.S. al Fine の読み方
Fine を使う組み合わせも同じ考え方です。「D.C. al Fine」は「曲の最初に戻り、Fine まで演奏して終わる」。「D.S. al Fine」は「セーニョへ戻り、Fine まで演奏して終わる」。どちらも終結部への飛び越しがないぶん、Coda を使う形より単純です。
クラシックのメヌエットやスケルツォでは、この D.C. al Fine が定番の書き方です。主部(メヌエット)→中間部(トリオ)→主部の再現、という三部形式で、トリオの終わりに D.C. al Fine と書き、主部の終わりに Fine を置きます。トリオの後は主部を最初から演奏し直し、Fine で曲が終わる構造です。
この形で気をつけたいのは、再現される主部の内部にもリピート記号がある場合の扱いです。多くの校訂版では、D.C. で戻った後の繰り返しは省略するのが慣例とされていますが、版によって指示が異なる場合があります。使用している楽譜の版の指示に従うのが原則で、指示がなければ演奏時間や様式に応じて判断することになります。判断に迷う場合は、使っている楽譜の出版社の解説や校訂報告を確認してください。
演奏順を1本の線に展開してから練習に入る
複合的な記号が使われた譜面は、頭の中だけで順番を追おうとすると必ずどこかで破綻します。実務的な解決策は、演奏順を小節番号の並びとして紙に書き出してしまうことです。たとえば「1-16小節 → 33-40小節 → 9小節へ戻る → 9-24小節 → 41小節へ飛ぶ → 41-48小節」のように、一本の線として展開します。
この作業をすると、記号の解釈が正しいかどうかを自分で検証できます。展開した結果、同じ小節を3回演奏することになっていたり、逆にどこにもつながらない小節が残ったりしたら、解釈のどこかが間違っています。音を出す前に矛盾が見つかるので、間違った順番で覚えてしまう事故を防げます。
展開した演奏順は、譜面の余白に書いておくと本番でも役立ちます。暗譜する曲であっても、練習の初期段階でこの作業をしておくと、構造そのものが記憶に残ります。繰り返し記号の解釈ミスは、練習を重ねるほど修正が難しくなるので、譜読みの最初に確定させておくのが結果的に近道です。

ジャンルによって出てくる記号の傾向は変わる
クラシックはD.C.とリピート記号が中心
クラシックの楽譜で頻出するのは、リピート記号とD.C.です。ソナタ形式の提示部を繰り返すリピート記号、三部形式の主部を再現するD.C. al Fine。この2つが分かれば、古典派の作品の大半は演奏順を追えます。逆に、コーダ記号を使った複雑な飛び越しはクラシックでは比較的少なめです。
ただし、クラシックには「繰り返しを実際に演奏するかどうか」という別の問題があります。ソナタの提示部の繰り返しは、譜面に指示があっても演奏会では省略されることがあり、これは演奏者の判断や慣習に委ねられる部分です。譜読みの段階では譜面どおりに繰り返して構造を把握し、演奏方針は後から決めるという順序をおすすめします。
作曲年代による傾向もあります。バロックの舞曲では2部分それぞれにリピート記号が付く形が定番で、古典派になるとD.C.を使った三部形式が増えます。ロマン派以降は自由な形式が増え、記号による繰り返しよりも実際に音符を書き出す形が多くなっていきます。記号の使われ方から時代を推測できるのは、楽譜を読む楽しみのひとつです。

ポップス・バンドスコアはD.S. al Codaが定番
ポップスのバンドスコアやピアノアレンジ譜では、D.S. al Coda が圧倒的に多く使われます。イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→Aメロ→Bメロ→サビ→アウトロという典型的な構成を、譜面上でコンパクトに表現するのにこの組み合わせが最適だからです。
ポップス譜を読むときのコツは、記号を音楽の構成(セクション)と対応づけることです。セーニョ記号はたいていAメロの頭にあり、to Coda はサビの終わりにあります。この対応関係を知っていれば、譜面を細かく追わなくても記号の位置がおおよそ予測できます。
もう1つ、ポップス譜特有の注意点として、繰り返し回数の指定が文字で書かれるケースがあります。「×2」「Repeat 2 times」「2回繰り返し」といった書き込みです。リピート記号の原則は1回だけ繰り返すことなので、これらの指定がある場合は原則より優先されます。譜面の文字情報を読み飛ばさないでください。
吹奏楽・合奏譜では奏者間の解釈統一が必須になる
吹奏楽やアンサンブルの譜面では、繰り返し記号の解釈が奏者ごとにずれると合奏が崩壊します。ソロで弾くピアノなら間違えても自分だけの問題ですが、合奏では全員が同じ順番で演奏している必要があります。そのため、合奏前に演奏順を全員で確認する作業が組み込まれるのが通例です。
特に、パート譜では休符が長く続く箇所が「12」のような数字入りの休符記号にまとめられているため、自分のパートだけを見ていると曲全体の構造が見えにくくなります。繰り返し記号の指示は書かれていても、飛び先の小節が何小節目なのかを把握しづらいのです。この場合はスコア(総譜)を確認するか、練習番号(リハーサルマーク)を手がかりに位置を特定します。
練習番号は、A・B・C…やアルファベット+数字で譜面に振られた目印で、合奏中に「Bから」と指示するために使われます。繰り返し記号の飛び先を練習番号で言い換えて記憶しておくと、合奏中の指示にすぐ対応できます。「D.S.でCへ戻る」と自分の譜面に書き込んでおくのが実務的な対処です。
繰り返し記号の解釈ミスを防ぐチェック手順
譜読みの最初に記号だけを拾い出す
音符を読み始める前に、譜面全体をめくって繰り返し記号だけを拾い出す作業を先に行ってください。リピート記号(点の向きも記録)、カッコの番号、D.C.、D.S.、セーニョ記号、Fine、to Coda、Coda。この8つのチェック項目を、譜面の何小節目にあるかとセットでメモします。
この作業に慣れると、1ページあたり数十秒で済むようになります。それでいて、後から演奏順を間違えて覚え直す手間と比べれば圧倒的に短時間です。特に初見演奏の場面では、演奏開始前の短い時間でこのチェックができるかどうかが、止まらずに弾き通せるかを左右します。
拾い出すときのコツは、譜面の「端」を重点的に見ることです。リピート記号は小節線の位置、D.C.やD.S.は段の右端、Fineは終止線の近く、カッコは五線の上部。繰り返し記号は音符の中に紛れることが少なく、譜面の周辺部に集まっています。視線を端に沿って動かすだけで、ほぼ拾えます。
繰り返し記号の解釈は「1周目と2周目で読み方が変わる」という一点に集約されます。1周目はFine・to Coda・セーニョを素通りし、2周目にそれらが効力を持つ。この非対称性さえ理解すれば、複合的な譜面でも順番を組み立てられます。
シーン別・記号の確認優先順位
読者の状況によって、優先して確認すべき記号は変わります。独学で1曲を仕上げたい方は、まずリピート記号とカッコを完璧にしてください。この2つで、初級〜中級のピアノ譜の大半はカバーできます。D.C.やD.S.が出てくる曲に当たってから、次の段階へ進めば十分です。
ポップスの弾き語りやバンドスコアを扱う方は、D.S. al Coda を最優先で理解してください。ポップス譜ではこの組み合わせがほぼ必ず出てくるので、ここを押さえないと譜面が読めません。逆にクラシック特有のD.C. al Fine は、必要になってから覚えても支障ありません。
合奏やアンサンブルに参加する方は、記号の解釈に加えて「練習番号との対応づけ」を優先してください。個人練習では自分の解釈だけで済みますが、合奏では他の奏者と同じ地図を共有する必要があります。譜面に飛び先を練習番号で書き込む習慣が、合奏の効率を大きく変えます。
ピアノと音楽の教科書調べ・6記号の役割早見表
最後に、ヤマハおよび音楽理論解説の公式な定義に基づいて、6種類の記号を役割別に整理した表を掲載します。譜読みで迷ったときの参照用として使ってください。
| 記号 | 1周目の扱い | 2周目の扱い | セットで使う記号 |
|---|---|---|---|
| リピート記号 | 終点で前へ戻る | 無視して先へ進む | 始点側のリピート記号(なければ冒頭) |
| 1番カッコ | 演奏する | 飛ばす | 終点側リピート記号・2番カッコ |
| 2番カッコ | 飛ばす | 演奏する | 1番カッコ |
| D.C./D.S. | 指示に従って戻る | 到達しない構成が多い | Fine または Coda |
| Fine | 素通りする | ここで曲を終える | D.C. または D.S. |
| to Coda/Coda | to Codaは素通りする | to CodaからCodaへ飛ぶ | D.C. または D.S. |
表の「1周目の扱い」の列を縦に見ると、Fine と to Coda が素通りであることが一目で分かります。この2つが繰り返し記号の理解を分ける境界線です。ここさえ間違えなければ、残りの記号は素直に読めば正しい順番になります。
記号を読めるようになると譜読みの速度が変わる
構造が見えると音符の意味が変わる
繰り返し記号を正確に読めるようになると、副次的な効果として曲の構造が把握できるようになります。どこが繰り返される部分で、どこが1回しか出てこない部分か。これが分かると、練習の配分を最適化できます。繰り返される部分は演奏機会が2倍あるので、そこを重点的に仕上げるほうが本番の完成度が上がります。
また、2回目にしか演奏しない区間(2番カッコやコーダ)は、練習量が不足しがちな箇所です。通し練習では必ず1回しか通らないため、他の部分の半分しか練習していないことになります。この構造的な偏りを意識して、意図的に2番カッコやコーダだけを取り出して練習する時間を作ってください。
本番で崩れるのは、たいていこの「1回しか通らない区間」です。譜読みの段階で構造を把握しておけば、どこにリスクがあるかも同時に分かります。繰り返し記号を読むことは、練習計画を立てることでもあります。

ピアノ練習を始めたものの、「毎日弾いているのに曲が仕上がらない」「片手なら弾けるのに両手にすると崩れる」と感じている方は多いはずです。原因の多くは、才能でも練習…
初見演奏では記号の先読みが差を生む
初見演奏では、演奏しながら数小節先を目で追う必要があります。このとき、繰り返し記号の位置をあらかじめ把握できていれば、飛び先に視線を移す準備ができます。逆に、演奏中に初めてD.S.を見つけると、セーニョ記号を探す間に音楽が止まってしまいます。
初見の前に与えられる短い確認時間では、音符を読むより先に繰り返し記号の配置を確認するほうが効果的です。音符は演奏しながら読めますが、演奏順は演奏しながらでは組み立てられないからです。優先順位としては、拍子・調号・繰り返し記号の3つを先に確認し、それから音符を眺めるのが定石です。
グレード試験や検定で初見課題が課される場合も、この確認手順は変わりません。制限時間内に何を見るかで結果が変わるので、繰り返し記号を最優先で確認する習慣をつけておいてください。詳しい級区分や課題内容は主催者の公式要項で確認できます。
楽譜を入手するときに確認しておきたいこと
同じ曲でも、出版社やアレンジによって繰り返し記号の使い方が変わります。あるアレンジではD.S. al Coda で書かれているものが、別のアレンジでは音符を全部書き出してあることもあります。書き出し型の譜面はページ数が増えますが、演奏順で迷う心配がありません。
初心者向けのアレンジ譜では、意図的に繰り返し記号を減らして書き出す編集方針をとっている楽譜もあります。譜読みに不安がある段階では、こうした譜面を選ぶのも合理的な選択です。楽譜の購入前に、サンプルページで繰り返し記号の使われ方を確認しておくとミスマッチを防げます。
楽譜そのものは出版社の著作物なので、当サイトでは譜例を掲載していません。実際の記号の見た目を確認したい場合は、出版社の公式サイトやぷりんと楽譜などの公式販売元のサンプル表示で確認してください。多くの楽譜は冒頭数ページがサンプルとして公開されています。
まとめ
繰り返し記号は、6種類の役割を「どこへ飛ぶか」と「どこで終わるか」の2軸で整理すれば、暗記に頼らず読めるようになります。リピート記号とカッコが近距離の分岐、D.C.とD.S.が遠距離のジャンプ、FineとCodaが終わり方の指定。この3層構造が頭に入っていれば、初めて見る譜面でも記号を拾って演奏順を組み立てられます。
そして、最も間違えやすいのは1周目と2周目で読み方が変わる記号です。Fine、to Coda、セーニョ記号の3つは1周目では素通りし、戻ってきた2周目に初めて効力を持ちます。この非対称性を理解していないと、1周目で曲を終わらせてしまったり、無限ループに陥ったりします。逆に言えば、ここさえ押さえれば残りは素直に読むだけです。
最初の一歩としておすすめしたいのは、今取り組んでいる曲の演奏順を、小節番号の並びとして紙に1本の線に展開してみることです。展開してみて矛盾がなければ解釈は正しく、矛盾があればどこかの記号を読み違えています。音を出す前にこの検証ができるようになると、譜読みの精度と速度が一段変わります。
なお、繰り返しを実際に演奏するかどうかの判断や、D.C.で戻った後の繰り返しの扱いは、楽譜の版や慣習によって異なる場合があります。使用している楽譜の出版社の指示を優先してください。

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