音符の高さは読めるようになったのに、音符以外の細かい記号で手が止まる。独学でピアノを進めていると、この段階で足踏みする人がかなりの割合で出ます。五線の上に散らばっている「p」「Allegro」「tr」「⌢」「𝄆」といった記号は、音符と違って高さや長さを直接示してくれないので、ひとつずつ辞書を引くしかないように見えるからです。
結論から書きます。楽譜の記号は、種類の多さで覚えようとすると続きません。「その記号が何をコントロールしているのか」という役割で分けると、数十個ある記号がおおむね5つのグループに収まります。高さを変えるのか、長さや休みを決めるのか、音量を決めるのか、速さや気分を伝えるのか、音のつなぎ方を指示するのか。この5つのどこに属するかが分かれば、初見の記号でも「たぶんこの系統だ」と当たりを付けられるようになります。
この記事では、ヤマハの楽譜解説、洗足学園音楽大学のオンラインスクール、楽譜出版社の読譜ガイドといった公開資料の表記に沿って、強弱記号・速度記号・演奏法記号・装飾音符・休符・変化記号・反復記号を役割別に整理します。譜読みでつまずきやすい「タイとスラーの取り違え」「全休符と2分休符の見間違い」「D.S.で迷子になる」の3つについては、原因と見分け方まで具体的に踏み込みます。
・楽譜の記号を5つの役割に分ける整理法と、記号に共通する「効力範囲」の考え方
・強弱記号ppp〜fff・sfzの並び方と、音量に決まった数値がない理由
・速度標語とメトロノーム記号の関係、Molto・pocoで意味が変わる仕組み
・タイとスラー、全休符と2分休符、D.S.とD.C.といった間違えやすい記号の見分け方
楽譜の記号は「種類」ではなく5つの役割で覚える

記号の一覧表を上から順に眺めても頭に残らないのは、暗記の努力が足りないからではありません。並び順が役割と無関係だからです。ここでは、譜読みの現場で使える分け方を先に示します。
一覧表を丸暗記しても翌週に消える理由
記号が覚えられない最大の原因は、五十音順やアルファベット順に並んだ一覧で覚えようとすることにあります。この並びだと、隣り合った記号どうしに意味のつながりがありません。人の記憶は「関連づけ」で定着するので、意味の無関係な項目を横一列に並べたリストは、覚えた翌週にはほとんど残らない形になります。
実際の譜読みで必要なのは、記号の名前を言えることではなく、「その記号が来たら自分の手や耳が何を変えるのか」を即座に判断できることです。スタッカートなら指の離し方、フォルテなら打鍵の速度、調号なら押す鍵盤そのもの。変える対象がまったく違います。だからこそ、名前ではなく「何を変える記号か」で束ねるほうが、演奏という行動に直結します。
独学の人がやりがちなのは、曲の途中で知らない記号に出会うたびに検索し、その場で理解して先に進み、次の曲でまた同じ記号を調べ直すパターンです。これは記憶の定着という点で効率が落ちます。最初に役割の枠だけ作っておき、新しい記号に出会ったら「これは5つのうちどれか」と分類しながら覚えていくと、一度調べた記号が枠の中に残ります。枠がある状態とない状態では、同じ回数調べても定着がまったく変わります。
音の高さ・長さ・強さ・速さ・つなぎ方——役割で5つに分ける
当サイトの整理では、ピアノ譜に出てくる記号を次の5グループに分けます。①音の高さを変える記号(シャープ・フラット・ナチュラルなどの変化記号と調号)、②音の長さと休みを決める記号(休符・タイ・フェルマータ)、③音の強さを決める記号(強弱記号)、④速さと気分を指示する言葉(速度標語・メトロノーム記号・発想記号)、⑤音のつなぎ方と進行を指示する記号(スタッカートやスラーなどの演奏法記号、装飾音符、反復記号)です。
この分け方が有効なのは、グループごとに「調べるべき情報源」と「練習で確認する方法」が違うからです。①は理論の話なので鍵盤の位置で確認できます。③④は言葉の意味なので用語集で足ります。⑤は指の動作なのでゆっくり弾いて体で確認するしかありません。グループが分かれば、次にやるべきことも自動的に決まります。
下の表は、公開されている楽譜解説の記載をもとに、役割別に代表的な記号を並べたものです(ピアノと音楽の教科書調べ)。譜読みの前にこの表の左端の列だけ頭に入れておくと、初めて見る記号でも「どの列の仲間か」を推測できます。
| 役割グループ | 代表的な記号 | 演奏で変わること |
|---|---|---|
| ①高さを変える | ♯・♭・♮、調号 | 押す鍵盤そのものが変わる |
| ②長さ・休みを決める | 各種休符、タイ、フェルマータ | 鳴らす時間と鳴らさない時間 |
| ③強さを決める | ppp〜fff、mp、mf、sfz、rf | 打鍵の速さと音量のバランス |
| ④速さ・気分を伝える | Allegro等の速度標語、♩=の数字、Dolce等 | テンポと曲全体の表情 |
| ⑤つなぎ方・進行 | スタッカート、スラー、トリル、リピート記号 | 指の離し方と演奏する順番 |
どの記号にも共通する「いつまで効くのか」という考え方
グループ分けと同じくらい重要なのが、記号の効力範囲です。楽譜の記号には「その1音だけに効くもの」と「そこから先ずっと効き続けるもの」があり、この区別を取り違えると、指示どおりに弾いているつもりで曲の後半がまるごとずれます。
強弱記号は後者の代表です。ヤマハの読譜解説では、強弱記号はその記号が出てきたところから次の強弱記号が出現するまで効力が続くと説明されています。つまり、1ページ目の頭にpと書いてあり、その後に何も書かれていなければ、2ページ目に入ってもpのままです。「最初だけ弱く」という指示ではありません。速度標語や発想記号も同じで、記載された箇所以降で効力を発揮します。
一方、スタッカートやアクセントは付いている音符にだけ効きます。装飾音符も同様で、記号が付いた音の処理だけを指示します。譜読みのときは、記号を見つけたら「これは点の指示か、線の指示か」と自問する習慣をつけてください。線の指示(強弱・速度・表情)なら、次に同じ系統の指示が出てくる場所を探して鉛筆で印を付けておくと、練習中に音量や速さが自然に戻ってしまう事故を防げます。
記号は「点で効くもの(スタッカート・アクセント・装飾音符)」と「線で効くもの(強弱・速度・表情)」に分かれます。線で効く記号は、次の同じ系統の指示が出るまで続きます。譜読みの最初に、線で効く記号だけを拾って印を付けると、曲全体の設計図が先に見えます。
独学・再開組・保護者、どのグループから手を付けるか
5つのグループのうち、どれを先に固めるかは読者の状況で変わります。大人になってから独学で始めた人は、まず①(変化記号と調号)と②(休符)です。この2つは押す鍵盤と拍の数え方に直結するので、誤解したまま進むと音そのものが違う演奏になります。逆に③④⑤は、音を間違えるわけではないので後回しでも致命傷になりません。
ブランクがあって再開した人は、①②はすでに体に入っていることが多いので、③(強弱)と④(速度・表情)から入るのが効率的です。子どもの頃に習っていた人ほど「音符を正確に弾く」訓練が残っていて、強弱や表情の指示を無視して均一に弾く癖が付いていることがあります。楽譜に書かれた強弱記号を一度全部丸で囲んでから弾き直すと、同じ曲でも印象が変わります。
子どもの練習を見ている保護者の場合は、②と⑤に注目してください。譜読みの初期に起きるミスの多くは、休符を飛ばす、繰り返しの順番を間違える、という進行に関するものです。音の高さの間違いは音でわかりますが、休符と反復の間違いは指摘されないと本人が気づきません。楽譜を横から見て、休符と反復記号の箇所だけ一緒に確認する役割に回ると、練習の質が上がります。
pとfは文字が増えるほど強くなる——強弱記号の並びと限界
強弱記号は、楽譜の記号の中でもっとも数が少なく、もっとも早く全体像をつかめるグループです。基本になる文字は2つしかありません。
pとfという2文字から全部が派生している
強弱記号の土台は、弱くという意味の「Piano(ピアノ)」と、強くという意味の「Forte(フォルテ)」の2語です。ヤマハの読譜解説でもこの2つが出発点として示されています。楽器のピアノという名前自体が、弱い音も強い音も出せる鍵盤楽器という意味の名称に由来していると説明されることが多く、強弱を自在に変えられることがこの楽器の性格そのものになっています。
この2文字を重ねると段階が増えます。pを2つ重ねたppはピアニッシモで「すごく弱く」、3つ重ねたpppはピアニッシッシモで「ものすごく弱く」。楽譜出版社の読譜ガイドでは、pppは「できるだけ弱く」という意味だと説明されています。強い側も同じ構造で、fがフォルテ、ffがフォルテッシモで「すごく強く」、fffがフォルテッシシモで「ものすごく強く」です。文字数がそのまま強調の度合いになる、という単純な規則で並んでいます。
ここでつまずくのは、pppとfffのような極端な指示を「音量の限界まで」と受け取ってしまうケースです。fffを打鍵の力任せで出そうとすると、鍵盤の底を叩く固い音になり、音量そのものはffとほとんど変わらないのに響きだけ濁ります。文字数は音量の目盛りというより、曲の中での相対的な位置づけを示す指示だと理解しておくと、無理な力み方を避けられます。
| 記号 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| ppp | ピアニッシッシモ | ものすごく弱く |
| pp | ピアニッシモ | すごく弱く |
| p | ピアノ | 弱く |
| mp | メゾピアノ | 少し弱く |
| mf | メゾフォルテ | 少し強く |
| f | フォルテ | 強く |
| ff | フォルテッシモ | すごく強く |
| fff | フォルテッシシモ | ものすごく強く |
mpとmfが真ん中にある理由と、書かれる場所
pとfの間を埋めるのが、メゾピアノ(mp、少し弱く)とメゾフォルテ(mf、少し強く)です。頭に付く「m」は中間を意味する語で、mpはpより少し強い側、mfはfより少し弱い側に位置します。並びとしては、p → mp → mf → f の順に強くなります。
ここで独学者が誤解しやすいのが、mfを「普通の音量」だと考えてしまうことです。並びの上では中央付近にありますが、mfはあくまで「少し強く」という指示であり、無表情な標準音量という意味ではありません。曲の冒頭がmfで始まっている場合、それは「やや強めの音で入ってほしい」という作曲者の指示です。
記号の書かれる場所も覚えておくと役に立ちます。ヤマハの解説では、強弱記号は歌詞(ボーカルパート)の上部、または五線譜の中心に記載されると説明されています。ピアノ譜の場合は右手と左手の五線に挟まれた位置に書かれることが多く、この位置に置かれた記号は原則として両手に効きます。右手の五線の真上にだけ小さく書かれている場合は、その声部に対する指示であることがあるので、位置を見て判断してください。譜読みのときは、強弱記号がどの段のどの高さに書かれているかまで含めて確認する習慣をつけると、両手のバランスを取りやすくなります。
sfzとrfは「面」ではなく「点」で効く強弱
強弱記号の中には、続けて効くのではなく特定の音だけを突き刺すように強調するものがあります。代表がsfz(スフォルツァンド)で、突然強いアクセントを付けるという意味の記号です。近い性格の記号にrf(リンフォルツァンド)があり、こちらは反復や強調を伴う強調として説明されます。
この2つが難しいのは、周囲の強弱との関係で出す音量が変わる点です。pの区間に置かれたsfzと、fの区間に置かれたsfzでは、実際に鳴らすべき音量がまったく違います。pの中のsfzを全力で鳴らすと、そこだけ別の曲が挿し込まれたように浮きます。基準になるのは「直前の音量からどれだけ跳ね上がるか」であって、絶対的な大きさではありません。
練習で確認するなら、sfzの音だけを抜き出して弾くのではなく、その前後2小節をセットにして弾いてください。前の音より明らかに強い、けれど区間全体の性格は壊していない、という状態が目安です。sfzの直後に強弱記号がなければ、元の強弱が続いていると考えるのが原則になります。ここを取り違えて、sfz以降ずっと強く弾いてしまうのは独学で頻発するミスです。
実は強弱記号に決まった音量値はない
意外と知られていないのですが、強弱記号には明確な基準がありません。ヤマハの解説でも、強弱記号は曲調と前後の文脈で判断する必要があると説明されています。「fは何デシベル」といった数値の取り決めは存在せず、同じfでも、静かな小品の中のfと、大編成の曲の中のfでは実際の音量が違います。
これは楽譜が不親切だからではなく、音楽が相対的なものだからです。強弱記号が伝えているのは「この曲のこの場面では、直前と比べてこちら側に寄せてほしい」という方向の指示です。だから、強弱を練習するときに大事なのは、単発でfを出す練習ではなく、pからfまでの幅を自分の中で決めることになります。
実践的な手順としては、まず曲全体をざっと見て、いちばん弱い指示(たとえばpp)といちばん強い指示(たとえばff)を探します。その2点を自分の手で出せる範囲の両端に割り当て、間の記号を等分に配置する。この作業を先にやっておくと、曲の途中でfが出てきたときに迷いません。楽譜に書かれた記号の種類が多い曲ほど、この事前の割り当てが効いてきます。
Allegroは速い、では何拍?——速度と表情を伝えるイタリア語

テンポの指示には、言葉で書かれるものと数字で書かれるものの2種類があります。この2つは性格がまったく違い、混同すると「メトロノームどおりなのに曲らしく聞こえない」という状態になります。
速度標語は数値ではなく「相対的な速さ」を言葉で示す
Allegro、Andante、Adagioといったイタリア語の指示を速度標語と呼びます。洗足学園音楽大学のオンラインスクールでは、これらは相対的な速度を言葉で表す方法だと整理されており、速度標語はメトロノーム記号のように正確なテンポを示していないと明記されています。この一文が、速度標語の性格をよく表しています。
同資料では、目安として Allegro(アレグロ)が♩=108〜120で「速く」、Andante(アンダンテ)が♩=80〜92で「歩くような速さで」と示されています。ただしこれは目安であって、Allegroと書かれた曲を必ずこの範囲で弾かなければならない、という規則ではありません。曲の書かれた時代や様式によって、同じAllegroでも実際に選ばれるテンポは変わります。
言葉としての速度標語には、遅い側から Largo(ゆるやかに、幅広く)、Adagio(ゆるやかに)、Lento(おそく)、Andante(歩くような速さで)、Moderato(中くらいの速さで)、Allegro(速く)、Vivace(活発に、元気のよい)、Presto(きわめて速く、急速に)といった段階があります。丸暗記するより、Andanteが「andare(歩く)」に由来し、急がずにゆっくり進むという意味を持つように、語源から意味をつかむほうが記憶に残ります。歩く速さという説明は、実際に自分が歩くテンポを想像できるので、数字より当てになる場面があります。
| 標語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| Largo | ラルゴ | ゆるやかに(幅広く) |
| Adagio | アダージョ | ゆるやかに |
| Lento | レント | おそく |
| Andante | アンダンテ | 歩くような速さで |
| Moderato | モデラート | 中くらいの速さで |
| Allegro | アレグロ | 速く |
| Vivace | ヴィヴァーチェ | 活発に、元気のよい |
| Presto | プレスト | きわめて速く、急速に |
♩=96が意味しているのは「1分間に4分音符が96個」
もうひとつのテンポ指示がメトロノーム記号です。♩=96のように音符と数字で書かれ、絶対的な速度を示します。この表記が意味しているのは、1分間に4分音符が96個入る速さです。言葉ではなく数で決まっているので、誰が読んでも同じ速さになります。
左側の音符が何かを見落とさないでください。基準になる音符は4分音符とは限らず、8分音符や付点4分音符が置かれることもあります。基準音符が変われば、同じ数字でも実際の速さは変わります。譜読みのときは数字だけを見て設定しがちですが、音符の形まで確認してから練習を始めてください。
速度標語とメトロノーム記号が両方書かれている楽譜では、標語が曲の性格を、数字が具体的な速さを示していると考えるのが素直な読み方です。校訂者や編者が参考値として数字を補っている場合もあり、その場合は括弧付きで書かれていることがあります。原典の指示なのか編者の提案なのかは、楽譜の前書きや凡例に書かれているので、練習前に一度目を通しておくと判断できます。
拍の感じ方そのものが曲によって変わる、という話は、リズムの記号を理解するうえでも重要になります。強拍と弱拍の位置がずれる仕組みについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

MoltoとpocoでAllegroの意味が変わる
速度標語は単独で使われるとは限りません。Molto(非常に)、poco(少し)といった付加語が添えられ、意味を強めたり弱めたりします。Molto Allegroなら「非常に速く」の方向、poco Allegroなら控えめな方向へ動きます。この付加語を読み飛ばすと、指定より速すぎたり遅すぎたりするテンポで曲全体を組み立ててしまいます。
独学でありがちなのは、大きな文字の標語だけを見て、その前後に小さく添えられた語を無視することです。標語の直前や直後に短い単語が付いていたら、それは速度を修飾する語である可能性が高いので、必ず意味を調べてから練習に入ってください。
また、曲の途中でテンポを動かす指示が現れることもあります。この場合も効力範囲の考え方が効きます。テンポを変える指示は、次の指示が出るまで有効です。「もとのテンポで」という趣旨の指示が後から出てくる曲では、その位置を先に探しておくと、練習中にどこまで速度を保つべきかが明確になります。楽譜に線を引いて区間を可視化するだけで、テンポの安定感が変わります。
DolceやEspressivoは「気分」を伝える発想記号
速さでも強さでもなく、曲の表情を伝える言葉が発想記号(表情記号)です。発想記号は、具体的に詳細な演奏法を示すものというよりは、やや抽象的・総合的に作曲者の意図や演奏時の心づもりを示すものだと説明されます。速度標語と同じくイタリア語で書かれることが多く、音符の上下に記載されて、その箇所以降で効力を発揮します。
代表的なものを挙げると、Dolce(ドルチェ)は甘美に、Espressivo(エスプレッシーヴォ)は「表情豊かに」という意味で感情的な表現力を込めた演奏を求めるもの、Con fuoco(コンフオーコ)は火のような生き生きとした情熱的な演奏、Con brio(コンブリオ)は活気をもって、Maestoso(マエストーソ)は荘重に威厳を持って、Cantabile(カンタービレ)は歌うように、といった指示があります。
これらが独学者にとって扱いにくいのは、意味を知っても手の動きに直結しないからです。「甘美に」と言われても、どの鍵盤をどう押せば甘美になるのかは書かれていません。ここは理屈で埋めるしかない部分で、たとえばCantabileであれば、メロディーの音だけを取り出して声に出して歌い、息継ぎの位置とフレーズの山を確認してから鍵盤に戻す、という手順が有効です。発想記号は、名演を聴いて理解することの重要性が指摘される領域でもあります。楽譜を読むだけでなく、同じ指示が書かれた箇所を複数の演奏で聴き比べると、言葉と音の対応が少しずつ結びついていきます。
スタッカートは音価の半分?演奏法記号は「離し方」の指示
ここからは、音のつなぎ方と切り方を指示する記号です。アーティキュレーション記号とも呼ばれ、同じ音符列でもまったく違う音楽に変えてしまう力を持っています。
スタッカートとテヌート——切るか、保つか
スタッカートは、音と音の間を切って演奏することを示す記号で、楽譜では符頭の上下に点(・)を付けて指示します。一般に音価の半分の長さ鳴らすと説明されますが、実際には場合により異なる、という点が重要です。バロックの軽快な曲と、ロマン派の重厚な曲では、同じ点でも切り方の性格が変わります。
対になるのがテヌートで、音の長さを十分に保って演奏することを示し、符頭の上下に短い横線(−)で表示されます。スタッカートが「離す」指示なら、テヌートは「保つ」指示です。テヌートを「少し強く」と誤解している人がいますが、指示しているのは長さであって強さではありません。
練習でつまずくのは、スタッカートを「短く弾く」ではなく「速く指を上げる」と解釈してしまうケースです。指を跳ね上げる意識が強いと、打鍵そのものが浅くなり、音量が落ちて曲の流れが途切れます。鍵盤の底まできちんと届かせたうえで離す、という順番を守ると、短くても芯のある音になります。ゆっくりのテンポでスタッカートだけを練習し、音が痩せていないかを耳で確認してから原曲のテンポに近づけてください。
アクセントと複合記号——強調はどこにかかるのか
アクセントは、音楽のある部分を特に強調して際立たせる記号です。強弱記号のsfzと似ていますが、sfzが強弱の系統に属するのに対し、アクセントは演奏法の系統に属し、フレーズの中でどの音を立てるかという意味合いで使われます。
アクセントとスタッカートが同時に付くこともあり、これはアクセントをつけたスタッカートとして扱われます。強調しつつ短く切る、という二重の指示です。記号が重なっている箇所を見つけたら、それぞれの記号の意味を分解して、両方を同時に満たす弾き方を探してください。片方だけを実行すると、作曲者の意図した輪郭が出ません。
アクセントで独学者がやりがちな失敗は、腕全体を振り下ろして強調しようとすることです。腕の動きで強調すると、そのあとの音まで巻き添えで大きくなり、強調したい1音だけが立ちません。強調する音の直前で手の位置を安定させ、その音だけ打鍵の速度を上げる、という切り分けが必要です。まずは強調する音を含む数音だけを取り出し、目的の音だけが立って聞こえるかを確認してから前後をつなげてください。
レガートとスラー——なめらかさは指の交代で作る
レガートは、音をつなげて、音の間を切れ目なく演奏することを指します。この「なめらかさ」を楽譜上で指示するのがスラーで、ヤマハの解説では、スラーは違う音をつないでいる場合の記号で、音と音の間を滑らかに演奏する演奏方法を指示すると説明されています。スラーを使うことで、メロディーがより自然で滑らかに聞こえる効果が生まれます。
ピアノでレガートを実現する仕組みは、弦楽器や管楽器とは異なります。前の音を押さえたまま次の鍵盤を押し、次の音が鳴った瞬間に前の指を離す。この重なりの一瞬があるかどうかで、つながって聞こえるかどうかが決まります。つまり、レガートは指の交代のタイミングの問題であり、気持ちの問題ではありません。
うまくつながらないときの原因はほぼ運指です。無理のある指番号を選んでいると、指を交代する余裕がなく、どうしても音の間に隙間ができます。スラーがかかっている区間だけを取り出し、その区間を1本の線として弾ける運指に組み直してください。楽譜に書かれている指番号は編者の提案なので、手の大きさによっては別の運指のほうが合うこともあります。ペダルでつなぐのは最後の手段です。ペダルに頼ると、隣り合う和音まで混ざって濁ります。
同じ弧線でも別物——タイとスラーの見分け方
譜読みでもっとも多い取り違えが、タイとスラーです。どちらも弧線で書かれるため見た目が似ていますが、指示している内容がまったく違います。ヤマハの解説では、タイは同じ音をつないでいる場合の記号で、弧線でつながれた音符をひとつの音として演奏すると説明されています。対してスラーは違う音をつないでいる場合の記号です。
見分け方は単純で、弧線の両端にある音符の高さが同じかどうかだけを見ます。同じ高さで、隣り合った2つの音を結んでいればタイ。異なる高さの音を含んでいればスラーです。タイの場合は2つ目の音を打鍵せず、1つ目の音を伸ばし続けます。ここを読み違えて2回打鍵してしまうと、伸ばすはずの音が刻まれ、リズムが崩れます。
この間違いが起きやすいのは、小節線をまたいでタイがかかっている箇所です。ページの端で弧線が切れているように見え、次の小節の頭を新しい音として弾いてしまいます。対策としては、譜読みの段階で小節線をまたぐ弧線をすべて探し、両端の音の高さを確認して「タイ」「スラー」と鉛筆で書き込んでおくことです。この作業を先にやっておくと、練習中に判断を迫られる場面がなくなります。
タイとスラーの取り違えは、独学の譜読みで起きるミスの上位です。判定基準は「弧線の両端の音の高さが同じか違うか」の一点だけ。同じ高さで隣り合う2音を結んでいればタイで、2つ目は打鍵せずに伸ばします。小節線をまたぐ弧線は特に見落としやすいので、譜読みの段階で全部に印を付けておいてください。
トリルはどこから弾き始める?装飾音符の読み方
演奏法記号の中でも、装飾音符は独学者が後回しにしがちな領域です。ただ、記号の種類自体は多くないので、代表的なものを押さえれば大半の楽譜に対応できます。
トリルは2度上の音との往復
トリルは、ある音とその2度上の音を震えるように細かく行き来する装飾音です。通常は「tr」の記号で表記され、長い音の上に置かれると、その音符の長さのあいだ往復を続けます。楽曲にデコレーティブな装飾効果を加えるのが目的で、バロック音楽で頻繁に使用されました。
ここで問題になるのが、どちらの音から弾き始めるかです。書かれている音(主要音)から始める場合と、2度上の音から始める場合があり、これは曲の書かれた時代や校訂版の方針によって扱いが変わります。だからこそ、使っている楽譜の前書きや注釈を確認するのが確実です。校訂版には装飾音の実施例が併記されていることがあり、その版の方針に従うのがもっとも迷いません。
練習の順序としては、まず往復の回数を決めてしまうことをおすすめします。トリルは「速く細かく」と考えると指が固まり、かえって粒が揃いません。この音符の長さの中に何往復入れるかを先に決め、その回数をゆっくり正確に弾いてから速度を上げると、音が均一になります。速さは結果であって目標ではない、と考えてください。
装飾音符=主要音に対して、その周辺の音を素早く付け加えて音を飾る記号の総称。トリル(2度上との往復)、モルデント(2度下との往復)、プラルトリラー(上行の短い装飾)、ターン(主要音から上下に動く)などがあり、特定の記号または「tri」といった表記で示されます。バロック音楽で頻繁に使われ、その音と隣の音を速く反復させて音を揺らす効果が生まれます。
モルデントとプラルトリラー——上に行くか下に行くか
モルデントは、主要音から低くなる下行漣音で、主要音と隣接音との間を急速に往復する短い装飾音です。記号は波線に斜線を引いた形で書かれます。トリルが2度上との往復であるのに対し、モルデントは2度下との往復である点が違いです。
プラルトリラーは、主要音から高くなる上行漣音です。短いトリルのようなもので、1、2往復でやめて親音符の音で延ばす、という形で演奏されます。長く続けるトリルとは違い、装飾は一瞬で終わり、すぐ本来の音に落ち着きます。
この2つを取り違えると、飾りの向きが逆になって和声の響きが変わることがあります。見分け方は記号の形で、斜線が入っているかどうかが手がかりです。ただし、版によって記号の書き分けや解釈に幅があるため、判断に迷う箇所は使用している楽譜の凡例を確認してください。独学で装飾音を扱うときは、記号の名前を当てることより、その版が示している実施方法に従うほうが実用的です。
ターンは主要音から上下に動く
ターンは、主要音から上下に動く装飾音で、横に寝かせたS字のような曲線の記号で表示されます。上の音と下の音を経由して主要音に戻る、という動きになり、ターンを逆にした逆ターンという記号もあります。
ターンで独学者が迷うのは、記号が音符の真上にあるか、音符と音符の間にあるかで実施のタイミングが変わる点です。音符の真上にあれば、その音を弾いた直後から装飾が始まるのが一般的で、音符の間にあれば、前の音を保ったあとで装飾が入る形になります。どちらにしても、装飾の音が拍を食い過ぎると全体のリズムが崩れるので、まずは装飾を抜いた骨格だけで弾き、拍の位置を体に入れてから装飾を足してください。
装飾音符全般に言えることですが、飾りは主要な旋律より目立ってはいけません。装飾を練習しているうちに、そこだけ速度も音量も上がってしまい、旋律の輪郭が消えることがあります。装飾を入れた状態と抜いた状態を交互に弾いて、旋律の流れが同じに聞こえるかを確認するのが確実な検算になります。難易度の見立てについては、こちらの記事も参考になります。

休符とフェルマータ——「鳴らさない時間」を数える記号
音を出す記号ばかりに目が行きますが、譜読みの正確さを決めるのは、むしろ音を出さない時間の扱いです。ここを飛ばすと、拍が合わなくなります。
休符は対応する音符と同じ長さだけ休む
休符とは、音を発音しない場所に使う記号で、対応する音符と同じ長さを持ちます。4分音符と同じ長さだけ休む休符が4分休符、2分音符と同じ長さが2分休符、全音符と同じ長さが全休符です。この対応関係を覚えれば、音符の長さの知識がそのまま休符にも使えます。
洗足学園音楽大学のオンラインスクールでは、4分音符を1とした場合の比率で休符の長さが整理されています。全休符が4、2分休符が2、4分休符が1、8分休符が1/2、16分休符が1/4、32分休符が1/8、64分休符が1/16、128分休符が1/32という並びです。数字で見ると、休符が音符とまったく同じ体系で作られていることがはっきりします。
独学でつまずくのは、休符を「休憩」と考えてしまうことです。休符は演奏の中断ではなく、音を鳴らさないという能動的な指示です。休符の間も拍は進んでいるので、数えるのをやめた瞬間に次の音の入りがずれます。休符が出てきたら、音を出しているときと同じテンポで拍を数え続ける。これは音符と同じように数える、という原則そのものです。
| 休符 | 対応する音符 | 比率 | |
|---|---|---|---|
| 全休符 | 全音符 | 4 | |
| 2分休符 | 2分音符 | 2 | |
| 4分休符 | 4分音符 | 1(基準) | |
| 8分休符 | 8分音符 | 1/2 | |
| 16分休符 | 16分休符 | 16分音符 | 1/4 |
| 32分休符 | 32分音符 | 1/8 | |
| 64分休符 | 64分音符 | 1/16 | |
| 128分休符 | 128分音符 | 1/32 |
全休符と2分休符は「書かれる位置」で見分ける
休符の中で、独学者がもっとも取り違えるのが全休符と2分休符です。どちらも五線の中に置かれた四角い黒い塊で、形だけを見るとほぼ同じに見えます。長さは全休符が2分休符の倍なので、読み違えると小節の拍数が合わなくなります。
見分ける手がかりは形ではなく位置です。全休符は第4線の下にくっついて書かれ、2分休符は第3線の上にくっついて書かれます。塊が線からぶら下がっているのが全休符、線の上に乗っているのが2分休符、という覚え方をすると、譜面を目で追いながら瞬時に判断できます。ちなみに4分休符・8分休符・16分休符は、5本の線の下から2番目の線と4番目の線の間に書かれるので、位置そのものが休符の種類の情報を持っていることになります。
この間違いが表面化しにくいのは、片手ずつ練習している段階では拍のずれに気づきにくいからです。両手を合わせた瞬間に左右が噛み合わなくなり、原因を運指や指の独立に求めてしまう。実際には休符を1拍分短く(または長く)取っていただけ、というケースがあります。両手が合わない箇所を見つけたら、まずその小節の音符と休符の長さを足し算して、拍子の分だけ埋まっているかを検算してください。
全休符と2分休符を取り違えると、その小節の拍が合わなくなります。判定は位置だけで決まります——第4線の下にぶら下がっていれば全休符、第3線の上に乗っていれば2分休符。両手が合わない箇所が出たら、指のせいにする前に、その小節の音符と休符の長さを足して拍子ぶん埋まっているか検算してください。
フェルマータは「適当な長さに延ばす」という指示
音符や休符の上に置かれる半円と点の記号がフェルマータです。イタリア語で「停止」や「滞在」を意味する語に由来し、楽譜では音符または休符に付けて、適当な長さに延ばして演奏することを示します。記号は音符や休符の上下に表記されます。
注意しておきたいのは、この記号の意味が時代によって変わっている点です。古い時代の用法では終止を意味するだけで、顕著な時間延長を示しませんでした。古典派音楽以降になると、音符や休符の記譜上の定量時間が延長されることを指示する記号として使われ、音楽の時間の流れを停止させ、明確に音の長さを延長するようになります。古い様式の曲を弾くときに、現代の感覚で大きく引き伸ばすと様式から外れることがあるのは、この経緯があるからです。
休符に付いたフェルマータも見落とせません。この場合は「沈黙を延ばす」指示になります。音がないので延ばしている実感が持ちにくく、独学だと短く切り上げてしまいがちです。休符のフェルマータは、次の音の入り方を準備する時間でもあるので、拍を数えるのをやめずに、どこで再開するかを決めてから止まるようにしてください。
「約4倍」という目安と、実際にどう決めるか
どれくらい延ばすのかについては、記譜上の定量時間の約4倍という目安が提唱されているものの、実際にはテンポに応じて変動する、と説明されます。速い曲の中のフェルマータと、遅い曲の中のフェルマータでは、同じ倍率をかけても体感が違うからです。目安は出発点であって、そこから曲に合わせて調整する前提の数字だと理解してください。
現代音楽では、三角形や方形など異なる図形を用いて延長度合いを示すこともあります。作曲者が延ばし方を細かく指定したい場合に使われる書き方で、こうした記号に出会ったら、その楽譜の凡例を確認するのが確実です。記号の形が違えば意味も違う、という前提で読んでください。
ひとりで弾く場合の決め方としては、フェルマータの前後を通しで弾き、止まった時間が長すぎて曲の流れが切れないか、短すぎて止まった印象が残らないかを耳で判断します。合奏や伴奏では事情が変わり、フェルマータは指揮者の合図や奏者同士のコミュニケーションで息を合わせ、次の展開へ向かうための空間を作り出す重要な瞬間になります。ひとりで弾くときも、この「次へ向かうための間」という性格を意識すると、単に伸ばすだけの処理にならずに済みます。
調号と反復記号——譜面全体の設計を決める2つの指示
最後は、曲全体に影響する2種類の記号です。片方は押す鍵盤を決め、もう片方は演奏する順番を決めます。どちらも1箇所の読み違いが曲全体に波及します。
♯・♭・♮の3つが「変化記号」
シャープ(♯)は音を半音上げる、フラット(♭)は音を半音下げる、ナチュラル(♮)は変化記号の効果を取り消す。この3つをまとめて変化記号と呼びます。楽譜出版社の読譜ガイドでも、シャープ・フラット・ナチュラルを変化記号として説明しています。
独学で誤解が起きやすいのは、半音上げる/下げるという操作が、白鍵と黒鍵の区別とは無関係だという点です。半音上げた先が黒鍵になることが多いだけで、常に黒鍵になるわけではありません。鍵盤上で「隣」に動く、という理解のほうが正確です。この理解があると、白鍵どうしが隣り合っている箇所でも迷わなくなります。
ナチュラルの役割も押さえておいてください。ナチュラルは「変化記号の効果を取り消す」記号なので、単独で意味を持つのではなく、直前に効いている♯や♭とセットで初めて意味が決まります。つまり、ナチュラルが出てきたら、その音に何が効いていたのかを先に確認する必要があります。何も効いていない音に付いているように見える場合は、調号を見落としている可能性が高いので、譜面の左端に戻って確認してください。
調号はト音記号の右隣にまとまって付く
変化記号が五線の左端、ト音記号やヘ音記号のすぐ右隣にまとまって付いているものを調号と呼びます。出版社の読譜ガイドでは、調号はその都度臨時記号をつけるのを省くための記号だと説明されています。曲の中で繰り返し半音上げ下げする音がある場合、毎回記号を書くと譜面が読みにくくなるため、最初にまとめて宣言しておく仕組みです。
調号によって曲のキー(調性)が決定されます。そして、調号がない場合はハ長調またはイ短調とされています。長調と短調のどちらかは調号だけでは決まらないので、曲の終わりの音や和音の響きで判断することになります。譜読みの最初に調号を確認し、「この曲ではこの音に常に♯が付く」と声に出して確認してから弾き始めると、途中で臨時記号のように読み違える事故が減ります。
見分け方の要点は書かれている位置です。五線の左端、音部記号のすぐ右にまとまっているものが調号で、曲の途中で音符の直前に置かれているものが臨時記号です。同じ♯でも、左端にあれば以降ずっと効き、音符の直前にあればその場の指示になります。譜読みでは、まず左端の調号を確認し、次に曲中の臨時記号を拾う、という順番を守ってください。短い曲でも調号は付きます。誰もが知っている小品を題材に読譜の入口を確認したい場合は、こちらの記事も参考になります。

♯や♭が「左端の音部記号の右隣」にまとまっていれば調号、「曲中の音符の直前」にあれば臨時記号です。調号は曲のキーを決め、調号がなければハ長調またはイ短調。譜読みは、調号の確認→臨時記号の拾い出し、の順で進めると読み違いが減ります。
リピート記号と1番・2番括弧——同じ道を1回だけ戻る
反復記号は、小節を反復して演奏する場合に使用され、反復の開始位置と反復位置を示します。よく見るのが二重線の内側に2つの点がついたリピート記号です。洗足学園音楽大学のオンラインスクールの解説では、右側に点がある記号は「ここより後ろから戻る」ことを、左側に点がある記号は「直前のリピート記号に戻る」ことを意味し、直前の記号がなければ曲の始めに戻ると整理されています。
回数についての原則も押さえておいてください。特別な指定がなければ1回だけ繰り返します。「繰り返し」と書いてあるからといって何度も回るわけではなく、指定がなければ2周して先へ進む形になります。
繰り返しの終わりだけ違う音楽になる場合に使われるのが1番括弧と2番括弧です。1番括弧はくり返しの際に1回目のみ演奏される部分で、2回目は飛ばされます。2番括弧は2回目のみ演奏される部分です。この形式は、フレーズの終わりだけ反復内容が異なる場合に使われます。読み違えとして多いのは、2周目に入ったのに1番括弧をそのまま弾いてしまうケースで、そのまま進むと同じ場所を延々と回り続けることになります。
D.C.とD.S.——戻る先がまったく違う
曲の後半で出てくる文字指示にも決まった意味があります。ダ・カーポ(D.C. / Da Capo)は曲の始まりに戻り、その後のFineで終了します。ダル・セーニョ(D.S. / Dal Segno)はセーニョ記号の位置まで戻ることを指示します。つまり、D.C.は曲頭へ、D.S.はセーニョ記号のある地点へ、と戻り先が違います。ここを取り違えると演奏の順番がまるごと変わります。
組み合わせで使われるのも特徴で、D.S. al Coda、D.C. al Fineといった形で書かれます。Fineは曲の終わりを示す記号で、コーダはD.S.やD.C.で戻った後、コーダ記号から進む区間を指します。文字だけを追うと迷いやすいので、記号どうしの対応関係を線で結んでしまうのが実用的です。なお、こうした反復の形式は、メヌエットやガヴォットなどTrioをもつ3部形式の作品でよく見られます。
迷子になる最大の原因は、音を出しながら順番を判断しようとすることです。弾きながらでは、戻る・飛ばす・終わるの判断が間に合いません。音を出す前に演奏順を確定させておけば、練習中に道に迷うことはなくなります。
楽譜の記号を読む力を伸ばすためのまとめ
記号の意味を調べる作業は、辞書を引く行為に見えて、実は曲の設計図を読み解く作業です。最初の一歩としておすすめしたいのは、いま練習している曲を1曲選び、音を出さずに記号だけを拾って余白に書き出すことです。左端の調号、線で効く強弱と速度、点で効くスタッカートやアクセント、そして反復の順番。この4種類を書き出すだけで、その曲でどこに注意を向ければよいかがはっきりします。
記号の解釈は、時代や版によって幅がある領域でもあります。装飾音の弾き始めやフェルマータの延ばし方のように、判断が分かれる箇所に出会ったら、使っている楽譜の前書きや凡例を確認するのが確実です。本記事の内容は、ヤマハの楽譜の読み方解説、洗足学園音楽大学オンラインスクールの楽典解説、楽譜出版社の読譜ガイドといった公開資料の表記に沿って整理しています。
※記号の表記や解釈は楽譜の版によって異なる場合があります。実際に演奏する際は、お使いの楽譜の凡例・注釈をご確認ください。

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