ショパンワルツ難易度は資料で最難関が3曲に割れる|初心者向け3曲と上級の境目を整理

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ショパンのワルツを弾いてみたい。けれど「どの曲から手をつければいいのか」が分からない——そう思って難易度表を検索すると、かえって迷子になります。ある資料は華麗なる大円舞曲Op.18を「最も難しい」と書き、別の資料はOp.42を、さらに別の資料はOp.64-3を挙げているからです。同じ作曲家の同じジャンルなのに、順位表の頂点が3曲に割れているのです。

先に結論を書きます。順位表が割れるのは、誰かが間違っているからではなく、「難易度」という言葉が指している中身が資料ごとに違うからです。音を並べる技術の難しさ、譜読みの難しさ、最後まで集中を持たせる持続力、表現の深さ——これらのどれを重く見るかで、頂点は入れ替わります。一方で「入門として選ばれやすい曲」と「上級の大曲」の大枠は、複数の資料でほぼ一致しています。

この記事では、全音ピアノピース・G.Henle・PiaDOORなど公開されている難易度表記を1つの表に並べ直したうえで、入門にあたる第12番・第7番・第9番から、子犬のワルツ、華麗なる大円舞曲Op.18、そして上級のOp.42とOp.64-3までを、調・テンポ指示・技術的な要求という具体的な材料で読み解いていきます。順位を暗記するためではなく、あなたが自分の手で選べるようになるための地図です。

💡 この記事でわかること

・「一番難しいワルツ」の答えが資料ごとに入れ替わる理由と、ものさしの読み分け方
・入門として名前が挙がる第12番・第7番・第9番の違いと、届く時期の目安
・子犬のワルツが「約1分30秒」の見た目より手間がかかる具体的な理由
・中上級の入口Op.18と、上級のOp.42・Op.64-3を分けている要素

目次

ショパンワルツ難易度は、資料ごとに「最難関」が入れ替わる

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「一番難しいワルツ」の答えが3曲に割れている

ショパンのワルツで最も難しい曲はどれか。この問いに対する答えは、参照する資料によってOp.18・Op.42・Op.64-3の3つに分かれます。ある解説は華麗なる大円舞曲Op.18について「この曲はワルツ集の中で『最も難しい』とされています」と書き、別の解説はOp.42を「ショパンのワルツの最高傑作であり演奏も最も難しいとも評されています」と紹介し、さらに同じ解説がOp.64-3を「ショパンのワルツの中で最も難易度が高いとされる作品です」と書いています。

矛盾しているように見えますが、読んでいる中身をたどると理由がはっきりします。Op.18は装飾音・前打音・両手のバランス・ダイナミクスの幅という「細部の技術」で難しいとされ、Op.42は規模の大きさと持続力、大きな跳躍と複雑なリズムで難しいとされ、Op.64-3は臨時記号の多さと複雑な対位法という「譜読みと構造の理解」で難しいとされています。測っている軸がそれぞれ違うのです。

ですから、難易度の情報を集めるときは順位そのものではなく「どの軸で難しいと言っているのか」を先に見てください。あなたが跳躍が苦手なのか、臨時記号の多い譜面で音を外しやすいのかによって、同じ順位表でも意味が変わります。

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全音・ヘンレ・PiaDOOR——ものさしが3種類ある

難易度表記が割れるもう1つの原因は、日本で参照される評価基準が1つではないことです。全音ピアノピースはAからFのアルファベットに「初級」「中級」「中上級」といった語を添えて示し、ドイツのG.Henle社は数字で段階を示し、PiaDOORはグレードの数字と「中級上」などの語で示します。さらに、10段階で採点する形式の解説サイトもあります。

具体的に子犬のワルツOp.64-1で見ると、全音ピアノピース一覧表では中級(C)、G.Henleの評価では6(中級)、PiaDOORではグレード4(中級上)と表記されています。数字だけを並べると「4なのか6なのか」と混乱しますが、いずれも中級帯を指しており、実は矛盾していません。数字の大小ではなく、その数字が何段階中のいくつなのかを確認するのが読み方のコツです。

以下は、公開されている表記を当サイトで1つの表に整理したものです(ピアノと音楽の教科書調べ)。空欄は「その基準での表記を確認できなかった」という意味で、難易度が低いという意味ではありません。

📊 3つのものさしを並べて比較
全音ピアノピース G.Henle 10段階の資料
子犬のワルツ(Op.64-1) 中級(C) 6(中級) 5(資料により5〜6)
華麗なる大円舞曲(Op.18) D(中上級)/「中上級B」と記す資料もある 表記を確認できず 表記を確認できず
大円舞曲(Op.42) 表記を確認できず 7(上級) 8

そもそも「ワルツは何曲あるか」からして揺れている

難易度以前の話として、ショパンのワルツは曲数の数え方すら資料で一致していません。作曲時に出版された公開曲が8曲、Fontanaが編集した遺作が5曲、さらに失われた曲が6曲、帰属が不確定な曲が2曲あり、これらをすべて含めた総数として28曲と数える整理があります。一方で「ショパンは19曲のワルツを作曲しました」と書く資料もあります。

この違いは、楽譜が現存しない曲や、本当にショパンの作なのか確定していない曲をどう扱うかの差です。数え方が違えば「第○番」という通し番号もずれる余地が出てきます。実際、市販の楽譜や解説では第1番から第19番までの番号が広く使われていますが、この番号だけを頼りに曲を探すと、資料をまたいだときに別の曲を指してしまう危険があります。

そこで実務的なコツを1つ。曲を特定するときは「第7番」ではなく「Op.64-2(第7番)」のように作品番号を添えてください。楽譜を注文するとき、先生や仲間と曲名を共有するときの取り違えが、これだけでほぼ消えます。全曲の一覧はショパンのワルツ一覧(fchopin.net)のような一覧ページで作品番号ごとに確認できます。

「難易度」は音の難しさだけを指していない

難易度表の数字は、指がどれだけ速く動くかだけを表しているわけではありません。ピアノの曲を難しくする要素は、大きく4つに分けられます。音を並べる技術(速さ・跳躍・トリル)、譜読みの負荷(臨時記号の多さ・声部の数)、持続力(曲の長さと集中の維持)、そして表現の深さ(歌わせ方・音色の作り分け)です。

ショパンのワルツはこの4つがきれいに分かれて現れるジャンルなので、難易度表が割れやすいのです。たとえばOp.69-1「別れのワルツ」は「技術的には初級レベルで取り組みやすい構成」とされる一方、「この曲の魅力を十分に引き出すためには、深い音楽的理解と繊細な表現力が求められます」とも書かれています。技術の軸では初級、表現の軸では中級以上という、二重の顔を持った曲です。

独学で選曲するときは、この4軸のうち自分がどこで止まりやすいかを先に把握しておくと失敗が減ります。譜読みで止まる人がOp.64-3から始めるのは遠回りですし、指の速さが課題の人が子犬のワルツをテンポ通りに仕上げようとすると長期戦になります。

踊るための曲ではない——ワルツを難しくしている前提

ショパンが作ったのは「コンサート・ワルツ」だった

ショパンのワルツが他のワルツより難しく感じられる最大の理由は、そもそも踊るための音楽として書かれていないからです。ある解説はこう説明しています。「ショパンは、ウィーンの舞踏会で演奏されるヨハン・シュトラウスらのワルツとは異なる、芸術的な『コンサート・ワルツ』という新しいジャンルを確立しました」。つまり聴くため・演奏するための作品として設計されています。

舞踏会の音楽であれば、踊り手が足を運べるように一定のテンポを保つことが最優先されます。しかしコンサート・ワルツにはその制約がありません。テンポは曲の表情に合わせて自由に設計でき、装飾も細かく書き込めます。演奏する側から見れば「拍を刻めば形になる」曲ではなくなった、ということです。

ここを理解しないまま練習に入ると、拍だけ正確なのに音楽に聞こえないという壁にぶつかります。ワルツを弾くときは、3拍子を数える作業から入るのではなく、旋律のフレーズがどこで山を作るかを先に決めてください。左手はその山を支える伴奏であって、メトロノームの代わりではありません。

3拍子なのにテンポ指示が曲ごとにばらばら

ショパンのワルツは基本的に3/4拍子ですが、テンポ指示は曲ごとに大きく違います。ある解説は「ショパンのワルツは多様な速度を特徴としており、ワルツには異例の『レント』の速度を採用されているものもあります」と指摘しています。反対に子犬のワルツOp.64-1の速度指示は「Molto vivace」、つまりきわめて活発に、という指定です。

同じ拍子記号でも、レントのワルツとMolto vivaceのワルツでは求められる技術がまったく違います。遅い曲では音色のコントロールと、長い音符を保ったまま次のフレーズへつなぐ耳が要ります。速い曲では手のポジション移動の効率と、粒をそろえる指のコントロールが要ります。難易度表で近い位置にある2曲でも、あなたにとっての難易度は逆転しうるということです。

選曲の際は、難易度の数字と一緒に必ずテンポ指示を確認してください。楽譜の1ページ目、曲名の下に書かれている外国語がそれです。この一行を読むだけで、練習の設計が変わります。

📖 用語チェック

コンサート・ワルツ=舞踏会で実際に踊るための伴奏音楽ではなく、演奏会で聴かせることを目的に書かれたワルツのこと。ショパンはこのジャンルを確立した作曲家とされる。踊りのテンポに縛られないため、レントからMolto vivaceまで幅広い速度指示が使われる。
テヌート=その音符の長さを十分に保って弾く指示。ワルツの左手では、1拍目を長め・強めのテヌート、2拍目と3拍目を短め・軽めのスタッカットで弾く形が一般的とされる。

左手の「ブン・チャッ・チャ」を型で覚えると崩れる

ワルツの左手といえば「ブン、チャッ、チャ」の伴奏形です。子犬のワルツでも、この主和音の単純なワルツリズムで統一されています。ところが、この形を「1拍目は低音、2拍目と3拍目は和音」という位置の記憶だけで覚えると、テンポを上げた瞬間に崩れます。

原因は手の動かし方にあります。左手は3つの別々の動作をしているのではなく、円を描くように3拍で1つの動きをしているためです。1拍目で低音に着地し、そこから腕全体が弧を描いて和音に移り、3拍目の終わりには次の1拍目の位置へ戻り始めている。この一筆書きの感覚がないまま指だけで押さえると、跳躍のたびに腕が止まり、音が硬くなります。

練習では、左手だけをゆっくり弾きながら「1拍目に重さを預け、2・3拍目は指先で軽く触れる」というバランスを確かめてください。1拍目のテヌートと2・3拍目のスタッカットという書き分けは、単なる表情づけではなく、腕の動きを楽にするための合理的な設計でもあります。

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入門として名前が挙がるのは第6番・第7番・第12番

ショパンのワルツを初めて弾くなら、どこから入るのが現実的か。10段階で難易度を示している資料は「初心者は第6番、第7番、第12番から手をつけると良いとされています」と整理しており、それぞれ第6番Op.64-1が難易度5、第7番Op.64-2が難易度5、第12番Op.70-2が難易度5と示されています。第9番Op.69-1は難易度6です。

この4曲に共通するのは、曲の長さが手ごろで、和音の跳躍やオクターブの連続といった手の大きさに依存する要素が比較的少ないことです。逆にOp.42のような大曲は、規模の大きさそのものが難しさになるため、最初の1曲には向きません。

注意したいのは、難易度5だから「簡単」という意味ではないことです。10段階のうちの5は中央付近であり、ショパン作品の中では入りやすい部類、という相対的な位置づけです。ソナチネ程度の曲を人前で通せる段階に達しているかどうかが、現実的な目安になります。

第7番Op.64-2は「弾きやすさ」と「表現の難しさ」が同居する

嬰ハ短調の第7番Op.64-2は、PiaDOORで難易度グレード4(中級上)とされる曲です。ショパンの作品の中では比較的演奏が平易であることから、愛奏者も多い1曲とされています。メランコリックで内省的な雰囲気を持ち、旋律そのものを知っている人も多いはずです。

技術面で要求されるのは、右手のスタッカットを鋭く短く保つこと、左手のタイミングの取り方、アクセントの表現、そしてクレッシェンドを意識した音量設計です。中間部ではメロディーを歌うように弾き、左手の和音の変化を感じながら進めます。リピートのある箇所では、1回目と2回目で表情に変化をつけることも求められます。

つまずきやすいのは中間部です。ある解説は「特に中間部の転調する部分では、音楽的な理解と表現力が試されます」と指摘しています。音は取れているのに退屈に聞こえる、という状態になったら、和音がどこで変わるかを鉛筆で楽譜に印をつけ、その変わり目で音色を変えてみてください。

第9番Op.69-1「別れのワルツ」は技術が初級・表現が中級

遺作の第9番Op.69-1は「別れのワルツ」「告別のワルツ」「告別」などの名で知られ、マリア・ヴォジンスカへの思いが込められたロマンティックで優美な作品と紹介されます。技術的には初級レベルで取り組みやすい構成とされ、ハ長調にアレンジされた初級向けの楽譜も出版されています。

ただし、この曲を「初級だから簡単」と受け取ると、練習が空回りします。左手の伴奏と右手のメロディーのバランス、フレーズの歌い方といった、音楽表現の基礎を学ぶのに向いた曲である一方、その表現の設計こそがこの曲の中身だからです。指が届くことと、曲になることの間に距離があります。

逆に言えば、表現の練習台として優秀な教材です。同じ旋律が繰り返されるたびに音量と音色をどう変えるか、フレーズの終わりをどう収めるか——こうした判断を1曲を通して練習できます。作品の基本情報はピティナ・ピアノ曲事典の該当ページでも確認できます。

📋 第9番 Op.69-1「別れのワルツ」プロフィール
分類・作品番号 遺作/Op.69-1(第9番)・変イ長調
難易度の表記 グレード分類は初級レベル、10段階の資料では6
求められるもの 左手伴奏と右手旋律のバランス、フレーズの歌い方、繊細な表現力
向いている人 速いパッセージが苦手な大人の再開組/表現の作り方を1曲で学びたい人。ハ長調編曲版から入る選択肢もある

どの教本のどのあたりで届くのか

「今の自分に手が届くのか」を判断する目安として、教本の進度と照らす方法があります。子犬のワルツについては「指が動く子どもの場合はソナチネ中盤~終盤程度で演奏可能です」という整理があります。ソナチネアルバムの中盤以降を人前で通せる段階が、ショパンのワルツの入口にあたる、と読み替えられます。

大人から始めた人・再開した人の場合は、事情が少し違います。速いパッセージは子どもより時間がかかりやすい一方で、和声の構造や曲の設計を頭で理解する力は大人のほうが働きます。エッセンスを掴めば運指の工夫で対応できる場面も多く、指の速度だけで可否を判断する必要はありません。

判断に迷ったら、候補曲の楽譜を1ページだけ、テンポを気にせず音を拾ってみてください。片手ずつなら音が取れる、臨時記号で毎小節止まることはない——このどちらも当てはまるなら、時間はかかっても仕上がる可能性が高い曲です。逆に片手でも音が拾えないなら、その曲はまだ先に置いておくのが合理的です。

子犬のワルツは「約1分30秒」の見た目ほど簡単ではない

3つの基準がそろって「中級」と示している

子犬のワルツOp.64-1は、演奏時間が約1分30秒という短さと、誰もが知る旋律から、初心者向けの曲だと思われがちです。しかし難易度表記を見ると、全音ピアノピース一覧表では中級(C)、G.Henleでは6(中級)、PiaDOORではグレード4(中級上)と、3つの基準がそろって中級帯を示しています。

短い曲が簡単とは限らない理由は単純で、この曲には休む場所がないからです。曲の大半で右手が動き続け、テンポはMolto vivace(きわめて活発に)。1音のミスも1分半のあいだ隠れる場所がありません。ゆっくりな曲であれば取り返せるほころびが、この曲では最後まで残ります。

作曲の背景も知っておくと解釈がしやすくなります。1846年の夏、ショパン36歳のときにジョルジュ・サンドの別荘ノアンで作曲され、友人がサンドのために持ってきた小犬「マルキ」が自分の尻尾を追いかけ回す様子から創作のインスピレーションを得たとされています。詳細は子犬のワルツの解説ページにまとまっています。

難所は2種類のトリルと右手の4連符

この曲で具体的に手が止まる場所は、ほぼ決まっています。速いパッセージ、異なる2種類のトリル、右手の4連符パターン、中間部の前打音、長いトリル、そして最後の音階のテンポ感の制御です。旋律は同じ音型を何度も繰り返す単純な構成なので、覚えるのは早い。けれど、その繰り返しを均一な粒でそろえるところに時間がかかります。

とくに2種類のトリルは要注意です。トリルは「速く震わせる」動作ではなく、必要な音数を決めてから、その音数がテンポの中に収まるように配分する作業です。何回入れるかを決めずに勢いで弾くと、毎回長さが変わり、拍がずれます。

主部の後半には、変ニ長調のスケールを2オクターブ下る旋律があります。ここは指くぐりの回数が多く、下りきる直前でテンポが走りやすい箇所です。走るのは焦っているからではなく、下降で腕の重さが前に流れるためなので、腕の進み方を意識してください。

⚠️ よくある失敗①:最初からMolto vivaceで練習してしまう

短い曲なので「通して弾く練習」を速いテンポで繰り返しがちですが、これが最も遠回りになるパターンです。原因は、速いテンポでは指がどこで転んだのか自分で聞き取れないこと。ミスの場所を特定できないまま回数だけ重ねると、転ぶ動作そのものを覚えてしまいます。対策は、右手だけをテンポを落として弾き、トリルと4連符の音数を口で数えながら確認すること。速度を上げるのは、音数が毎回同じになってからです。

黒鍵の多い変ニ長調で手のポジションが迷う

この曲の調は変ニ長調(Des-Dur)です。黒鍵が多く、鍵盤の奥側を使う場面が続くため、手のポジション調整が重要になります。白鍵中心の曲と同じ手の置き方をすると、指が黒鍵の間に落ちたり、親指が鍵盤の縁に引っかかったりします。

対処は、手全体を少し鍵盤の奥に置き、親指も黒鍵側に寄せておくことです。親指を手前に残したまま他の指だけ奥へ伸ばすと、手のひらがねじれて、その状態で速いパッセージを弾くことになります。曲の途中で急に弾けなくなる箇所があるなら、音ではなく手の位置を疑ってみてください。

右手のタッチも確認したいところです。この曲の主部は軽やかなノンレガートで弾かれるのが一般的で、指をべったりつなげると音が重くなり、テンポも上がりません。鍵盤の底まで押し込まず、跳ねるように離す感覚を先に作っておくと、後からテンポを上げやすくなります。

オクターブが出てこない——手が小さい人に向く理由

子犬のワルツには、意外と知られていない利点があります。オクターブの和音が出てこないため、手の小さい子どもの発表会の選曲に適している、とされている点です。ショパンの曲は手が大きいほうが有利という印象が強いなかで、この曲はその制約が小さいのです。

これは大人の学習者にも当てはまります。手が小さくて華麗なる大円舞曲Op.18が届かない人でも、子犬のワルツなら和音の広さでは詰まりません。詰まるとすればテンポと粒のそろえ方であり、これは時間をかければ改善できる要素です。手の大きさは変えられませんが、指の運び方は変えられます。

左手も、主和音による単純なワルツリズムで統一されています。跳躍の幅が極端に広い箇所がないため、左手の練習にかかる時間は他のショパン作品より短く済みます。曲全体の難所が右手に集中している——この構造を知っていれば、練習時間の配分を最初から偏らせることができます。

🎼 子犬のワルツの練習手順
Step1:左手だけを通す。1拍目に重さを預け、2・3拍目を軽く。3拍で1つの円を描く動きを体に入れる。ここはテンポを上げても崩れにくいので先に固める。
Step2:右手を難所ごとに分解する。2種類のトリル、4連符、中間部の前打音、長いトリル、2オクターブ下降のスケール。それぞれ音数を決めて、遅いテンポで粒をそろえる。
Step3:両手を合わせ、最後にテンポを上げる。最後の音階はテンポ感の制御が難しい箇所なので、ここだけは通し練習と別に取り出して仕上げる。

中上級の入口、華麗なる大円舞曲Op.18

中上級の入口、華麗なる大円舞曲Op.18の解説画像

D(中上級)という表記と、割れている記載

変ホ長調の華麗なる大円舞曲Op.18は、ショパンのワルツ第1番にあたる曲です。難易度表記については「全音ピアノピース難易度:D(中上級)と表記されており、複数の出版社や評価基準があります」と説明される一方、別の資料では中上級Bという記載も見られます。ここでも表記は完全には一致していません。

ただし、どの資料も「中上級」という帯では一致しています。子犬のワルツの中級(C)から1段上、という位置づけです。この1段の差が何を意味するのかを具体化しておくと、選曲の判断がしやすくなります。

差の中身は、要求される要素の数です。子犬のワルツは右手の速いパッセージに難所が集中していましたが、Op.18では装飾音、前打音、両手のバランス、ダイナミクスの幅といった要求が同時に重なります。1つずつなら対応できても、それらを同時に処理しながら曲を進める必要がある——これが中級と中上級を分けている実質です。

装飾音と前打音を「飾り」だと思うと崩れる

この曲は「ショパンのワルツの中でも最も優雅で柔軟なもの」「技巧的で優美な作品」と評されます。優雅さを作っているのが装飾音と前打音ですが、ここを本体の音符のおまけとして扱うと、途端に演奏が雑になります。

理由は拍の位置にあります。装飾音は本体の音を遅らせるか、その前に置くかで、拍のどこに重心が来るかが変わるためです。同じ音符列でも、装飾音の入れ方ひとつで優雅にも慌ただしくも聞こえます。速さの問題ではなく、時間の配分の問題です。

練習では、装飾音をいったんすべて省いて本体の音だけで通し、拍の骨組みを確認してください。そのうえで装飾音を戻すと、どこに音を差し込めばいいかが体で分かります。ダイナミクスの幅も同じで、まずは平坦に通してから強弱を設計するほうが、結果として幅の広い演奏になります。

「最も難しい」と言われる曲が、中級者の目標になる理由

ここが面白いところです。Op.18は「ワルツ集の中で最も難しい」とされる一方で、構造は比較的明瞭で、演奏時間も大作ほど長くありません。中級者が上級の入口として挑戦するのに適したレベル、という評価もあります。

矛盾しているようですが、これも軸の違いです。細部の技術要求という軸では確かに高いが、曲の設計を把握する負荷や、最後まで集中を保つ持続力という軸では、Op.42のような大曲ほどではない。だから「難しいが、目標として現実的」という位置に立つことができます。

一方で、手が小さい人には弾きにくく、初心者には向かないとも指摘されています。代わりに第3番、第6番「子犬のワルツ」、第9番「告別」から始めることが推奨されるという整理もあります。憧れの曲がOp.18なら、そこへ向かう途中に置く曲を先に決めておく——これが遠回りに見えて確実な進め方です。

💡 押さえておきたいポイント

中級(C)と中上級(D)を分けているのは、技術の種類ではなく「同時に処理する要素の数」です。装飾音・前打音・両手のバランス・ダイナミクスが一度に押し寄せるのがOp.18。単独の難所を潰す練習から、複数を同時に成立させる練習へ切り替える地点だと考えてください。

上級の頂点をどう見るか——Op.42とOp.64-3

Op.42は冒頭の長いトリルが最初の関門

変イ長調の大円舞曲Op.42(第5番)は、10段階評価で8、G.Henleでは7(上級)とされています。規模が大きく華麗で壮大な作品で、コンサート向けの大曲として作曲されており、演奏時間も長く、持続力と音楽的なスケール感が求められます。ショパンのワルツで最も難しいと評されることもある1曲です。

技術面で挙げられるのは、大きな跳躍、複雑なリズム、左手の技巧的な伴奏です。そして冒頭の長いトリルがいきなりの難所になります。粒がきれいにそろったトリルを静かに演奏するには、手指の繊細なコントロールが必要とされます。曲の最初に、最も繊細な作業が置かれているわけです。

この構造は練習設計に直結します。通し練習だけを繰り返すと、冒頭のトリルは常に「まだ手が温まっていない状態」で弾かれることになり、いつまでも安定しません。冒頭だけを独立した課題として、日をまたいで取り出して練習する必要があります。

⚠️ よくある失敗②:大曲を「通し練習」だけで仕上げようとする

Op.42のような長い曲で起きやすい失敗です。原因は2つあります。1つは、曲の前半ばかり演奏回数が多くなり、後半の完成度が上がらないこと。もう1つは、冒頭の難所が毎回コンディションの悪い状態で弾かれること。対策は、曲を難所単位で分割し、練習の開始位置を日ごとにずらすことです。「今日は中間部から」「明日は終結部から」と入口を変えるだけで、曲全体の完成度が平らになります。

Op.64-3は臨時記号の多さが壁になる

同じく変イ長調の第8番Op.64-3は、「ショパンのワルツの中で最も難易度が高いとされる作品です。複雑な対位法、技巧的なパッセージ、そして高度な音楽的理解が求められます」と説明されています。Op.64の3曲のなかでは、最も難しいという位置づけです。

この曲の難しさは、指よりも先に目に来ます。かなり臨時記号が多いため音を外しやすく、譜読みが難しい曲とされているのです。音を間違えたまま覚えてしまい、後から直すのに時間がかかるという事故が起きやすいタイプでもあります。

対策は譜読みの段階に投資することです。臨時記号が多い曲では、弾き始める前に楽譜を目で追い、♯や♭が何小節先まで有効なのかを確認しておくと、覚え直しの手間が減ります。1小節ごとに区切って、正しい音で1回鳴らしてから次へ進む——遅く見えて、結果的には最短ルートになります。

「Op.64は技術的には容易」という評価との食い違い

ここに、難易度情報を読むうえで知っておきたいねじれがあります。Op.64-3を最難関とする同じ資料の中に、「Op.64の3曲のワルツは、芸術的最高傑作であるにもかかわらず、技術的には演奏が容易で、世界中のピアニストに愛奏されています」という記述も存在します。最も難しいと書かれた曲が、同時に技術的には容易だとも書かれているわけです。

これは誤りというより、比較の対象が違うのだと考えると筋が通ります。プロのピアニストが弾く大曲全体のなかで見れば、Op.64は技術的に無理のない範囲にある。しかしショパンのワルツ集という枠の中で並べれば、Op.64-3は上位に来る。同じ言葉が、母集団によって逆の意味を持つのです。

難易度順のランキングを見るときは、それが「ショパンのワルツの中での順位」なのか「ピアノ曲全体での位置」なのかを確認してください。この一手間で、無用な自信喪失も、無謀な選曲も避けられます。実際、難易度順では第7番が第8番より上位に置かれる資料もあり、順位は資料ごとに揺れています。

ショパンワルツ難易度を自分の練習計画に翻訳する

数字だけで選ぶと、弾けるのに仕上がらない曲を選んでしまう

難易度表の数字は、選曲の入口としては便利ですが、そこで止まると判断を誤ります。理由はここまで見てきた通り、数字が技術・譜読み・持続力・表現のどれを重く見たかで変わるからです。同じ「中級」でも、あなたが得意な軸なのか苦手な軸なのかで、必要な練習時間は大きく変わります。

具体的なつまずき方はこうです。技術的には初級とされるOp.69-1を選び、音は1週間で取れたのに、そこから半年かけても「曲にならない」と感じて止めてしまう。原因は練習不足ではなく、この曲の課題が表現の設計にあることを知らないまま、音を正確にする練習だけを続けてしまったことです。

対策は、選曲の時点で「この曲で何を訓練するのか」を1つ決めておくことです。粒をそろえるならOp.64-1、フレーズの歌い方ならOp.69-1、複数要素の同時処理ならOp.18。目的が決まっていれば、練習が空回りしても軌道修正できます。

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タイプ別——あなたならどの1曲から始めるか

大人になってから始めた人・再開した人であれば、Op.69-1「別れのワルツ」かOp.64-2(第7番)が現実的です。どちらも速いパッセージの比重が小さく、表現の作り方を学べます。速い曲への憧れが強いなら、まずハ長調にアレンジされた初級向けの楽譜から入る選択肢もあります。

お子さんの発表会用に選ぶ立場なら、子犬のワルツOp.64-1が候補に上がります。オクターブの和音が出てこないため手の小さい子どもでも押さえられ、演奏時間も約1分30秒と短い。ただし中級帯の曲なので、ソナチネ中盤から終盤程度を通せる段階に達しているかを確認してから決めてください。

中級を抜けて上級へ進みたい人は、Op.18が中継地点になります。構造が明瞭で、大作ほど長くないぶん、上級の技術要求だけを取り出して訓練できるからです。その先にOp.42とOp.64-3が控えており、前者は持続力、後者は譜読みと構造理解が主戦場になります。

楽譜はどこで手に入れるか、版はどう選ぶか

ショパンのワルツは、1曲単位で買える形態と、全曲を収めた曲集の両方が出版社から出ています。1曲だけ弾きたい場合は単曲のピース、複数曲を視野に入れるなら曲集のほうが結果的に手軽です。全音ピアノピースのように難易度表記が付されているシリーズは、購入時点で位置づけを確認できます。

版による違いも押さえておきたいところです。ショパンの作品は自筆譜と初版で細部が異なる箇所があり、校訂者の判断で運指や装飾音の書き方が変わります。学習用には、校訂の方針が明記された版を選ぶと、疑問が出たときに解説を確認できます。

楽譜は出版社の公式サイトや、ぷりんと楽譜のような公式の販売元から入手してください。インターネット上で見つかる譜面画像には、権利関係が不明なものや、誤植を含むものが混ざっています。難易度の高い曲ほど、譜面の正確さが練習効率に直結します。

Q 大人から始めて、子犬のワルツまで届きますか?
A 目安として、ソナチネの中盤から終盤程度を通せる段階が入口とされています。大人の場合は速いパッセージに時間がかかりやすい一方、エッセンスを掴めば運指の工夫で対応できる部分もあります。どれくらいの期間で仕上がるかは、練習時間・これまでの経験・指の状態で大きく変わるため、期間を先に決めずに難所単位で進めるほうが確実です。
Q 第7番と第8番、どちらが難しいのですか?
A 資料によって順序が入れ替わります。難易度順で第7番(Op.64-2)が第8番(Op.64-3)より上位に置かれることもありますが、複数の資料を総合するとOp.64-3のほうがより高度な技術と音楽的理解を必要とするという見方が優勢です。臨時記号の多さで譜読みに苦戦しやすいのはOp.64-3、表現の作り込みで差が出るのはOp.64-2、という整理のほうが実用的です。
Q 手が小さいとショパンのワルツは無理でしょうか?
A 曲によります。Op.18は手が小さい人には弾きにくいと指摘されていますが、子犬のワルツOp.64-1はオクターブの和音が出てこないため、手の小さい子どもの発表会の選曲に適しているとされています。手の大きさで一律に諦めるのではなく、候補曲に広い和音がどれだけ出てくるかを楽譜で確認してから判断してください。

まとめ:難易度表は順位ではなく「軸」で読む

🎹 この記事の結論

ショパンのワルツは資料ごとに最難関が入れ替わります。入門は第12番・第7番・第9番、上級はOp.42とOp.64-3が目安です。

✅ 要点チェック
  • 順位は割れる:Op.18・Op.42・Op.64-3が各資料で最難関
  • ものさしは3種:全音のC、ヘンレの6、PiaDOORの4は同じ帯
  • 入門の目安:ソナチネ中盤〜終盤を通せる段階から
  • 子犬は中級:約1分30秒でも難所は右手に集中
  • 選曲の基準:数字ではなく訓練したい軸で1曲決める

ショパンのワルツは、踊るためではなく聴かせるために書かれたコンサート・ワルツです。だからこそテンポも装飾も自由に設計されており、その自由さが難易度表の揺れを生んでいます。順位表を眺めて迷っている時間があるなら、最初の一歩として、気になっている曲の楽譜を1ページだけ開いて、テンポを気にせず右手の音を拾ってみてください。片手で音が取れるか、臨時記号で毎小節止まらないか——この2点が、どの難易度表よりも正確にあなたと曲の距離を教えてくれます。

なお、難易度の表記は出版社や運営元の改訂によって変わることがあり、資料間で記載が一致しない箇所もあります。最新の表記は各出版社・各サービスの公式ページでご確認ください。

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ピアノと音楽の教科書編集部です。テーマに関する基礎知識や選び方を、公式情報など確認できる情報をもとに編集しています。掲載後も定期的に見直し、変更があれば更新します。

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