簡単クラシックピアノの「簡単」は全音6段階で決まる|エリーゼBとトロイメライDの差

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「クラシックを弾いてみたいけれど、どの曲なら自分にも弾けるのか分からない」。ピアノを始めたばかりの人や、久しぶりに鍵盤に向かう人が最初にぶつかるのがこの壁です。検索すると「簡単」「初心者向け」と紹介される曲はたくさん見つかります。ところが、ある記事で初心者向けとされた曲が、別の記事では中級扱いになっていることも珍しくありません。

結論から言うと、簡単なクラシック曲を選ぶときの物差しは「書き手の感覚」ではなく、出版社が公式に付けている難易度表記です。たとえば全音楽譜出版社の全音ピアノピースでは、「エリーゼのために」がB(初級上)、「トロイメライ」がD(中級上)とされています。どちらも誰もが知っている名曲なのに、公式ランクでは2段階の差があるんですね。さらに、同じ曲でも原曲の楽譜と「かんたんアレンジ」の楽譜では、指が弾く内容がまったく違います。

この記事では、全音ピアノピースの6段階ランクの読み方から、定番曲の公式ランク、アレンジ譜が何を削っているのか、譜読みで止まらない練習の組み立て方、読者タイプ別の選び方までを、音楽の仕組みと出版社の公式表記をもとに順番に解説します。

💡 この記事でわかること

・全音ピアノピースのA〜F、6段階ランクの読み方と教本との対応
・エリーゼのために/乙女の祈り/カノン/トロイメライの公式ランクの違い
・かんたんアレンジ譜が原曲から何を削っているのか
・譜読みで毎回同じ場所に止まる原因と、練習の組み立て方

目次

簡単クラシックピアノの「簡単」は誰が決めている?全音A〜Fの6段階で読み解く

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全音ピアノピースは「初級」から「上級上」まで6段階で表示される

曲の難しさを判断するとき、最初に頼りにしたいのが全音楽譜出版社の「全音ピアノピース」の難易度表記です。全音ピアノピースの公式情報では、難易度をA(初級)、B(初級上)、C(中級)、D(中級上)、E(上級)、F(上級上)の6段階に分けています。「簡単なクラシック」を探している人が狙うべきは、基本的にAとBの範囲です。

この表記が物差しとして使いやすい理由は、1曲ごとに1冊の楽譜として販売されていて、曲単位でランクが付いているからです。曲集の場合は「この本は初級」と本全体にラベルが付くことが多く、中に入っている1曲ごとの差までは分かりません。ピース楽譜なら、曲と難易度が1対1で対応します。

独学でありがちなのが、ネット上の「初心者でも弾ける名曲」といった紹介文だけを頼りに曲を選び、楽譜を開いてから想像以上に音が多くて戸惑うパターンです。紹介文は書き手の経験や感覚で書かれていることが多く、同じ曲の評価が記事ごとにずれるのはそのためです。曲を決める前に、全音ピアノピースの公式ページや楽譜の表紙で、その曲がどのランクに置かれているかを1回確認しておく。これだけで「思っていたのと違う」を大きく減らせます。

A・Bはバイエル程度、Cはブルグミュラー程度という教本との対応

アルファベットだけではピンと来ないので、教本の進度に置き換えて考えると分かりやすくなります。全音ピアノピースのランクは、Aが初級前半(バイエル前半程度)、Bが初級後半(バイエル後半程度)、Cが中級前半(ブルグミュラー程度)、Dが中級後半(ソナチネ程度)、Eが上級(ソナタ程度)、Fが上級上(演奏会レベル)という対応で説明されることが一般的です。

なぜ教本と結びつけるのかというと、教本はそれぞれ「どの技術を、どの順番で身につけるか」が設計されているからです。バイエルは両手を独立して動かす基礎、ブルグミュラーはそこに表現や多様な伴奏型を加える段階、と役割が分かれています。ピアノ学習1~2年程度でブルグミュラー程度に到達するのがひとつの目安とされており、「簡単」の上限をCあたりに置くと現実的な計画が立てやすくなります。

📊 全音ピアノピースの6段階と教本の目安
ランク 公式表記 教本に置き換えた目安 この記事で扱う曲
A 初級 バイエル前半程度 —
B 初級上 バイエル後半程度 エリーゼのために
C 中級 ブルグミュラー程度 乙女の祈り/パッヘルベルのカノン
D 中級上 ソナチネ程度 トロイメライ
E 上級 ソナタ程度 —
F 上級上 演奏会レベル —

ブルグミュラーの曲集ごとの難易度の違いは、別の記事で詳しく整理しています。

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同じ曲でもランクが変わる理由は「版」と「アレンジ」にある

もうひとつ押さえておきたいのは、難易度は「曲」ではなく「楽譜」に付いているという点です。全音ピアノピースのランクは、その出版社の版を弾いた場合の難しさを示しています。同じ曲名でも、別の出版社が初心者向けに音を減らして編曲した楽譜なら、指が弾く内容はまったく別物です。

理屈は単純で、ピアノの難しさを決めているのは曲名ではなく、音の数、手の広がり、左右の手の独立度、テンポといった楽譜上の要素だからです。たとえば「パッヘルベルのカノン」は、初心者から上級者までレベルに合わせた多様なアレンジが存在し、全音版は中級向けとされています。つまり「カノンは簡単」「カノンは難しい」という評価は、どの楽譜を指しているかで両方とも成り立ってしまうわけです。

独学の人がつまずきやすいのは、動画や紹介記事で見た曲の評価をそのまま信じ、手元にある別の版の楽譜で練習を始めてしまうケースです。楽譜を選ぶときは「曲名」「出版社」「難易度表記」の3点をセットで確認し、原曲の版なのか、かんたんアレンジなのかを区別してから選ぶようにしましょう。

有名な定番曲を公式ランクで並べ直すと何が見える?

「エリーゼのために」はB(初級上)、ただし冒頭だけで判断しない

「エリーゼのために」は、ベートーヴェンの作品で、正式な作品名は「バガテル第25番 WoO59」です。全音楽譜出版社の商品ページによると、全音ピアノピースでは「PP-002」として販売されていて、難易度は「B(初級上)」とされています。公式ランクで見ても、原曲の版のまま挑戦できる数少ない名曲のひとつです。

初心者に向いている理由は、冒頭のメロディーが短いまとまりで作られていて、同じメロディーが何度も繰り返されるからです。有名な冒頭のフレーズは右手だけでも演奏でき、指の動きもゆっくりです。一度覚えた部分が曲の中で何度も戻ってくるので、譜読みの量のわりに「弾ける範囲」が早く広がります。

ただし、見た目のシンプルさとは裏腹に、曲全体ではアルペジオ・スケール・半音階・トレモロ・同音連打・ペダリングといった要素が含まれています。メロディー部分は取り組みやすい一方で、中間の展開部の複雑なフレーズや右手の速いパッセージには中級以上の技術が必要とされています。冒頭が弾けた勢いで最後まで進もうとして、中間部で急に止まるのがよくあるパターンです。まず冒頭部分を完成させ、そこで一区切りつけてから中間部に進む、という段階を分けた計画にすると挫折しにくくなります。

エリーゼのためにの冒頭とフル版の差は、こちらの記事で詳しく分解しています。

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「トロイメライ」がD(中級上)になるのは、ゆっくりなのに手が広がるから

実は、「簡単そうに聴こえる曲」の代表格でありながら、公式ランクが高いのがシューマンの「トロイメライ」です。「子供の情景」Op.15の7曲目にあたるこの曲は、全音ピアノピースの難易度Dの一覧で「PP-005」、難易度「D(中級上)」とされています。ヘ長調、4/4拍子です。

楽譜は短く、テンポも速くありません。それなのにDになる理由は、オクターブ以上の音が出てくるからです。ゆっくりした曲では、1つ1つの音が長く響くぶん、和音のバランスや声部のつながりがそのまま聴き手に伝わります。速い曲なら勢いでごまかせる部分が、遅い曲では全部見えてしまうんですね。最初から最後まで夢の中にいるようなゆったりとした旋律は、見た目よりも実際の演奏に技術を要する作品です。

「子供の情景」という曲集名から子ども向けの易しい曲だと思い込み、初心者が最初の1曲に選んで手が届かない和音で止まる、というのがつまずきの典型です。この曲はCランクの曲を1〜2曲仕上げてから取り組むのが目安になります。挑戦するなら、まず和音を押さえる手の形が無理なく作れるかを確認し、届かない箇所は先生や上級者に指使いを相談してから進めましょう。

「乙女の祈り」と「パッヘルベルのカノン」はどちらもC(中級)

発表会などで人気の2曲は、全音ピアノピースではどちらもC(中級)です。「乙女の祈り」はバダジェフスカのOp.4で「PP-016」、変ホ長調。「パッヘルベルのカノン」は「PP-448」として販売されています。教本で言えばブルグミュラー程度の力が目安になります。

2曲がCに置かれる理由は、それぞれ別の形で「両手の役割分担」を求めるからです。「乙女の祈り」は、右手が1オクターブ離れた同じ音を弾き続ける場面が多く、楽譜を読むのが苦手な人でも音の並びは覚えやすい一方、オクターブを広げたまま動く手の形を保つ必要があります。「カノン」は、左手が一定のリズムで伴奏を繰り返し、右手が主メロディーを担当します。リズムと音域は比較的シンプルですが、表現力を育てる要素を含んでいるとされています。

ありがちなのは、「カノンは初心者向け」と紹介された動画を見て全音版を買い、左手の伴奏と右手のメロディーを同時に動かせずに止まるケースです。前の見出しで触れたとおり、カノンにはレベル別のアレンジが多くあるので、Bまでの曲に慣れていない段階ならアレンジ譜から入り、全音版は次の目標に置くのが無理のない順番です。

ピアノと音楽の教科書調べ:定番4曲の公式ランク一覧

ここまでの内容を、全音楽譜出版社の公式表記に沿って1枚にまとめました。作品番号の表記も公式・出版社の表記に合わせています。

📊 ピアノと音楽の教科書調べ:全音ピアノピースの公式ランク
曲名 作曲家・作品 ピース番号 公式難易度
エリーゼのために ベートーヴェン/バガテル第25番 WoO59 PP-002 B(初級上)
乙女の祈り バダジェフスカ/Op.4 PP-016 C(中級)
パッヘルベルのカノン パッヘルベル PP-448 C(中級)
トロイメライ シューマン/Op.15-7 PP-005 D(中級上)

表から読み取れるのは、知名度と難易度が比例しないという事実です。4曲とも広く知られた名曲ですが、公式ランクはBからDまで3段階に散らばっています。「有名だから簡単」「ゆっくりだから簡単」という思い込みを外し、表の上から順に取り組むのが、遠回りに見えて近道になります。次に確認しておきたいのは、自分がいまどのランクの曲を無理なく弾けるかです。Bの曲を1曲通せるかどうかが、Cへ進む判断材料になります。

最初の1曲に向くのはどれ?「短い・繰り返し・ゆっくり」で見分ける

最初の1曲に向くのはどれ?「短い・繰り返し・ゆっくり」で見分けるの解説画像

初心者向けの曲に共通する3つの条件

公式ランクに加えて、自分で楽譜を見て判断できる基準も持っておくと曲選びが楽になります。初心者向けの曲に共通する特徴は、短い曲であること、繰り返しが多い構成であること、メロディーがシンプルであること、そしてゆっくりとしたテンポであることです。

この3条件が効く理由は、譜読みの負担と演奏の負担をそれぞれ減らしてくれるからです。短くて繰り返しが多ければ、新しく読まなければならない音の量が減ります。メロディーがシンプルなら、指の動きを覚えることに集中できます。テンポがゆっくりなら、次の音を探す時間が確保できます。反対に、どれか1つでも欠けると、初心者にとっては一気に難しくなります。

楽譜を手に取ったら、まずページ数を数え、次に同じ形の小節が何度出てくるかを目で追ってみてください。同じ形が多ければ、実質的に覚える量は見た目より少なくて済みます。さらに冒頭のテンポ表示(速度記号)を確認し、速い指定なら後回しにする。この3つのチェックを曲選びの習慣にすると、公式ランクが付いていない曲集の中からでも、自分に合った曲を選べるようになります。

「メヌエット ト長調」が入門曲として選ばれてきた構造

3条件をそろえた入門曲の代表が「メヌエット ト長調」です。長らくJ.S.バッハの作品とされてきましたが、現在ではクリスティアン・ペツォルトの作品と修正されています(作品番号はBWV Anh.114)。ヤマハミュージックエンタテインメントの商品ページでも、この経緯が説明されています。

📋 プロフィールカード:メヌエット ト長調
分類・方式 バロック時代の舞曲(メヌエット)。『アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳』に掲載
作曲家・作品番号 クリスティアン・ペツォルト(伝バッハ)/BWV Anh.114/ト長調
難易度・級の表記 初級(楽譜販売サイトの表記)
向いている人・用途 原曲の版で最初のクラシックに挑戦したい人。左右の手が別々の旋律を弾く練習の入口として

この曲が入門に向く理由は、音域が狭く、シンプルな2つのメロディーで構成されているからです。右手と左手がそれぞれ独立した旋律を弾くので、バロック時代の多声音楽(複数の旋律を同時に鳴らす音楽)の考え方を無理なく体験できます。つまずきやすいのは、右手のメロディーばかり意識して、左手を「伴奏」として雑に扱ってしまう点です。まず左手だけを歌うように弾ける状態にしてから両手を合わせると、2つの旋律が対話する曲の構造が音で見えてきます。

「ジムノペディ第1番」はゆっくりでも左手が跳ぶ

エリック・サティが1888年に作曲した「ジムノペディ第1番」も、簡単な曲として名前が挙がりやすい1曲です。ゆったりとしたテンポで、単純なメロディーと和声が繰り返されるので、3条件のうち「繰り返し」と「ゆっくり」は満たしています。

ただし、この曲には初心者がつまずく要素が2つあります。ひとつは左手の跳躍、もうひとつは和音を覚える必要があることです。低音を弾いた直後に、離れた位置の和音へ手を移す動きが続くため、鍵盤を見ずに位置をつかむ感覚が求められます。解説の中には、広い音域やつかみにくい和音がブルグミュラーでは出てこないため、子どもにとってはブルグミュラーより難しく感じる曲だとする評価もあります。

大人は手が大きいぶん和音をつかみやすく、比較的取り組みやすいとされる一方、子どもには手の大きさの壁がある、という違いが出る曲です。挑戦するなら、左手の低音から和音への移動だけを取り出して、目で確認しながらゆっくり往復する練習から始めましょう。移動が安定したら、鍵盤を見る回数を少しずつ減らしていきます。

失敗パターン①:知名度で選んで中間部で止まる

曲選びの失敗で一番多いのが、「知っている曲だから」という理由だけで選び、最初の数ページは順調なのに中間部で止まってしまうパターンです。

⚠️ つまずきやすいポイント

有名な曲ほど、耳に残っているのは冒頭の主題だけということが多くあります。中間部は聴いた記憶が薄く、譜読みの負担が一気に増えるうえ、エリーゼのためにのように速いパッセージや別の技術が集中していることも。原因は「曲の難しさ」ではなく「曲の構造を知らずに選んだこと」です。楽譜を買う前に、全曲を通して聴き、中間部で何が起きているかを確認しましょう。

対策は、曲を「冒頭」「中間部」「再現部」のように部分で捉え、どの部分が難所なのかを事前に把握することです。全音ピアノピースのランクは曲全体の難しさを示しているので、Bの曲でも中間部にはランクより一段難しい箇所があると思っておくと、止まったときに慌てずに済みます。「今日は中間部の最初の4小節だけ」と範囲を区切って進めるのが、途中で投げ出さないコツです。

簡単クラシックピアノの楽譜は「アレンジの設計」で選ぶ

かんたんアレンジは原曲から何を削っているのか

原曲の版で弾ける曲はA〜Bの範囲に限られるので、それ以外の名曲を早いうちに楽しみたいなら、かんたんアレンジの曲集が現実的な選択肢になります。大事なのは、アレンジ譜が「どこを削って簡単にしているのか」を知っておくことです。

一般的に削られるのは、曲の長さ、左手の音の数、手の広がり、そして調(黒鍵の数)の4つです。長さは有名な部分だけを抜き出し、左手は和音を単音にし、オクターブの跳躍を狭い範囲に収め、調号の多い曲は白鍵中心の調に移調する。こうして初心者が扱える範囲まで情報量を落としています。

ここで注意したいのは、削られた部分がそのまま「原曲で練習しなければならない技術」でもあるという点です。アレンジ譜で弾けるようになったことと、原曲が弾けることは別の話です。アレンジ譜を選ぶときは、自分が何を楽しみたいのか(曲の雰囲気か、原曲への準備か)を先に決めておくと、どの曲集が合うかが見えてきます。楽譜は著作権のある出版物なので、入手は出版社の公式販売ページや、ぷりんと楽譜などの公式販売元を利用しましょう。

ヤマハの大人向け曲集は「ハイライト+左手最小限」の設計

大人の再開者向けに設計された曲集の例が、ヤマハミュージックエンタテインメントの「ピアノ・ソロ 大人のための かんたん!すぐ弾ける!クラシック名曲100選」です。公式の商品ページによると、各曲は原則2ページで、「ハイライト」部分を24~60小節程度にまとめた構成になっています。

設計の特徴は、先ほどの「削り方」がそのまま表れていることです。左手は単音で動きを最小限に抑えた編成、右手・左手の全音符に指使いを記載、ページの冒頭には「かんたんな演奏アドヴァイス」と鍵盤上の弾き始め位置ガイドが付いています。映画やテレビで流れるクラシック名曲を網羅し、久しぶりのピアノ再開者向けの「シンプルで響きのある」アレンジとされています。

この設計が向いているのは、昔ピアノを習っていて楽譜は読めるけれど、指がすっかり動かなくなっている人です。2ページで1曲が完結するので、短期間で「1曲弾けた」という区切りを作れます。一方で、ハイライトだけを抜き出しているため、曲の全体像を知りたい人には物足りなさが残るかもしれません。

ドリーム・ミュージック・ファクトリーの曲集は五線譜に慣れていない人向け

もう一段手前、五線譜そのものに不安がある人向けの例が、ドリーム・ミュージック・ファクトリーの「大人の簡単ピアノ[クラシック編]」です。公式の商品ページでは、ピアノをはじめたばかりの人、まだ五線譜に慣れていない人を想定読者としています。

特徴は、見やすく大きな譜面設計と、音名ふりがな・指番号付きの表記です。A4変型判で全136ページ、アレンジは青山しおり氏が担当し、モーツァルト、ショパン、ベートーヴェンなどの古典派・ロマン派の名曲を収録しています。音名のふりがなは、五線の位置から音を読み取る作業を肩代わりしてくれるので、「曲を弾く」ことに集中できます。

📊 楽譜タイプの違いを比較
項目 ヤマハ 大人向け曲集 大人の簡単ピアノ[クラシック編] 全音ピアノピース(1曲1冊)
難易度の表記 初級 超初級者向け 曲ごとにA〜Fの6段階
譜面の工夫 全音符に指使い、弾き始め位置ガイド 大きな譜面、音名ふりがな・指番号 出版社の版に準拠
向いている人 楽譜は読める再開者 五線譜に慣れていない人 原曲に挑戦したい人

ふりがな付きの楽譜で気をつけたいのは、ふりがなに頼りきると五線の読み方がいつまでも身につかない点です。慣れてきたら、ふりがなを指で隠して音を読んでみる時間を少しずつ作ると、次の段階の楽譜に移りやすくなります。

アレンジ譜から原曲へ移るタイミングの見極め方

アレンジ譜で何曲か弾けるようになったら、いつ原曲の版に移るかを考えたくなります。目安にしたいのは「左手が単音でなく和音や分散和音になっても止まらずに弾けるか」です。

理由は、アレンジ譜と原曲の最大の差が左手の情報量にあるからです。右手のメロディーはアレンジでも原曲でも大きくは変わらないことが多いのに対して、左手は単音から和音・分散和音へと一気に増えます。ここに対応できるかどうかが、原曲へ進めるかどうかの分かれ目になります。

移るときの具体的な順番としては、まずB(初級上)の曲を原曲の版で1曲選ぶのがおすすめです。エリーゼのためになら、アレンジ譜で弾き慣れた冒頭のメロディーをそのまま生かしながら、左手の分散和音に取り組めます。原曲で止まる箇所が多すぎる場合は、アレンジ譜に戻って左手の和音が多めの曲を挟む、という往復を恐れないでください。戻ることは後退ではなく、足りない技術を確認する作業です。

譜読みで毎回同じ場所に止まるのはなぜ?練習の組み立て方

片手ずつ・数小節ずつに分けると早く仕上がる理由

簡単な曲でも、最初から両手で通して弾こうとすると時間がかかります。練習は「片手ずつ」「数小節ずつ」に分けるのが基本です。

理由は、両手で弾くとき頭の中で起きている処理の多さにあります。右手の音を読み、左手の音を読み、それぞれの指番号を確認し、リズムを合わせる。これを同時にこなすのは、初心者にとって負荷が大きすぎます。片手ずつにすれば処理は半分になり、数小節に区切れば覚える量も減ります。小さく分けて確実に弾ける範囲を作り、それをつなげていくほうが、結果として早く仕上がります。

🎼 練習の手順
Step1:全曲を通して聴き、繰り返しの部分と難所に印を付ける
↓
Step2:右手・左手を別々に、数小節ずつ指番号どおりにゆっくり弾く
↓
Step3:同じ範囲を両手で合わせ、止まらずに弾けたら次の範囲へ進む
↓
Step4:範囲どうしをつなげて通し、最後にテンポを少しずつ上げる

繰り返しの多い曲なら、Step1で印を付けた時点で「実際に読む必要がある範囲」が見えてきます。同じ形が出てきたら練習済みとして扱えるので、新しく取り組む範囲だけに時間を集中させましょう。

指番号を守ると譜読みが速くなる理屈

楽譜に書かれた指番号は、面倒でも守るのが近道です。特に今回紹介したヤマハやドリーム・ミュージック・ファクトリーの曲集のように指使いが書かれている楽譜では、その数字が練習の地図になります。

指番号が大事な理由は、「次の音にどの指で届くか」があらかじめ設計されているからです。指使いを毎回変えると、手が同じ動きを覚えられず、弾くたびに違う場所で迷います。反対に、同じ指使いで繰り返せば、手の動きそのものが記憶され、楽譜を読む負担が減っていきます。

独学でありがちなのは、弾きやすそうな指で適当に弾き始め、数小節先で指が足りなくなって止まるパターンです。これは指が回らないのではなく、手前の指の選び方に原因があります。指番号は「その先で困らないための準備」だと理解しておきましょう。どうしても手の大きさに合わない指使いがあれば、変えてもかまいませんが、変えたら鉛筆で楽譜に書き込み、毎回同じ指で弾くことが条件です。

テンポを上げるのは最後にする

練習の最後の段階まで、テンポはゆっくりに保つのが原則です。初心者向けの曲の条件に「ゆっくりとしたテンポ」が入っているのも、同じ理屈によるものです。

なぜゆっくり弾くと結果的に速く弾けるようになるのか。それは、ゆっくり弾いている間に「正しい音・正しい指・正しいリズム」が手に定着するからです。速いテンポで弾くと、間違えた音や違う指使いもそのまま繰り返してしまい、間違いごと覚えてしまいます。一度覚えた間違いを直すのは、最初から正しく覚えるより時間がかかります。

見極めの目安は、ゆっくりのテンポで3回続けて止まらずに弾けるかどうかです。できたら少しだけテンポを上げ、また3回続けて弾けるか確かめる。途中で崩れたら、ひとつ前のテンポに戻します。メトロノームを使うと、テンポの変化を数字で管理できるので、自分の進み具合が見えやすくなります。

失敗パターン②:毎回頭から通して弾いてしまう

練習の失敗で多いのが、弾き始めるたびに曲の頭から通し、同じ場所で毎回止まるパターンです。

⚠️ つまずきやすいポイント

頭から通す練習を繰り返すと、弾けている冒頭ばかりが上達し、止まる箇所は毎回「初めて弾く状態」のまま残ります。止まる原因は、難所の練習量が他の部分より少ないことです。止まる箇所の2小節前から弾き始め、難所を抜けた2小節後で止める「部分練習」に切り替えましょう。

この方法が効くのは、難所への「入り方」と「抜け方」まで含めて練習できるからです。難所だけを切り出すと、その部分は弾けても前後とつながらないことがあります。前後の小節を少し含めることで、曲の流れの中で弾ける状態に近づきます。止まる箇所に鉛筆で印を付け、練習のたびにそこから始める習慣にすると、通し練習のときに止まる回数が目に見えて減っていきます。

作曲家と時代を知ると、同じ「簡単な曲」の弾き方が変わる

「メヌエット ト長調」はバッハ作ではなかった

入門曲の定番「メヌエット ト長調」は、長らくJ.S.バッハの作品と思われてきました。1979年、音楽学者ハンス=ヨアヒム・シュルツェが、この曲がペツォルトの「組曲ト長調」の一部であることを発表し、現在ではペツォルトの作品と修正されています。

バッハ作と考えられてきたのは、この曲が『アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳』に掲載されていたからです。この音楽帳にはさまざまな作曲家の曲が書き写されており、そのため作曲者の取り違えが起きたとされています。メヌエット ト短調と対になっていることもあわせて知っておくと、ト長調を弾き終えたあとの次の1曲として、同じ舞曲の短調版に進むという流れも作れます。

弾き方の面では、メヌエットがもともと宮廷の舞曲であることを意識すると表現が変わります。舞曲には踊りのステップがあるので、拍の重さが一定に並ぶのではなく、1拍目に自然な重みが来ます。右手のメロディーだけを歌わせるのではなく、左手の旋律と2つの声部が会話するように弾くと、バロック時代の多声音楽らしい響きに近づきます。

「エリーゼのために」は性格的小品「バガテル」の1曲

「エリーゼのために」の正式な作品名は「バガテル第25番 WoO59」でした。作品名に付く言葉の意味を知っておくと、曲との向き合い方が見えてきます。

📖 用語チェック

バガテル=性格的小品という、規模が小さな楽曲のこと。大規模なソナタのような多楽章の構成を持たず、1つの気分や性格を短くまとめた作品を指します。
WoO=作品番号(Op.)が付けられていない作品に対して使われる番号の表記。ベートーヴェンの作品目録で用いられます。

「小品」だから簡単、というわけではない点に注意が必要です。規模が小さいということは、短い時間の中に1つの気分をはっきり描き切る必要があるということでもあります。冒頭の主題が何度も戻ってくる構成は、同じメロディーを毎回同じように弾くのではなく、戻ってくるたびに聴き手に「また来た」と感じさせる弾き方の工夫を求めています。繰り返しが多いぶん、譜読みの負担は軽くなりますが、そのぶん表現に意識を回す余裕が生まれる曲だと考えると練習の方向が定まります。

「トロイメライ」と「乙女の祈り」に見るロマン派の小品

「トロイメライ」はシューマンの「子供の情景」Op.15の7曲目、「乙女の祈り」はポーランドの作曲家テクラ・バダジェフスカのOp.4です。どちらもロマン派の時代に書かれた、ピアノ1台で楽しむ小品です。

「乙女の祈り」は、1858年9月にフランスの音楽雑誌『La Revue et Gazette Musicale』の付録としてパリで発表されました。バダジェフスカは1834年あるいは1838年生まれ、1861年に亡くなっています。雑誌の付録として家庭で弾かれることを想定した曲だったと考えると、右手のオクターブで同じ音が続き、覚えやすく作られている構造にも納得がいきます。

一方の「トロイメライ」は、「子供の情景」という曲集名から子ども向けの練習曲と思われがちですが、全音ピアノピースでのランクはD(中級上)です。子どもが弾くための曲ではなく、子ども時代の情景を大人の視点から描いた曲として読むと、ゆったりとしたテンポの中で和音の響きをじっくり聴かせる必要がある理由が見えてきます。

サティの「ジムノペディ」とパッヘルベルの「カノン」は時代の外側にある2曲

ジムノペディ第1番は、フランスの作曲家エリック・サティが1888年に作曲した曲で、ピアノ以外にもさまざまな楽器版が出版されています。パッヘルベルのカノンも、ピアノ曲として書かれたものではなく、ピアノ用に編曲された楽譜で親しまれている曲です。

この2曲に共通するのは、ピアノで弾かれるときには「ピアノ用に置き換えた楽譜」を弾いているという点です。原曲がピアノのために書かれていないので、どの楽譜を選ぶかで音の数や難しさが大きく変わります。カノンにレベル別のアレンジが多く存在し、全音版が中級向けとされているのはそのためです。

曲選びの面では、「原曲のピアノ版はこれ1つ」とは限らない曲だと理解しておくと、楽譜選びで迷いにくくなります。気になった楽譜の難易度表記と音の数を見比べ、自分の段階に合う版を選びましょう。カノンの音の仕組みについては、こちらの記事でニ長調の音階から解説しています。

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再開組・完全初心者・子どもの保護者で、選ぶ曲と楽譜はどう変わる?

大人の再開組:アレンジ曲集で指を戻し、Bの原曲を目標にする

昔ピアノを習っていて、久しぶりに弾き始める人は、「楽譜は読めるけれど指が動かない」という状態からのスタートになることが多いはずです。この場合は、ヤマハの大人向け曲集のような、ハイライト部分を短くまとめたアレンジ譜で指を戻すところから始めるのが合っています。

理由は、再開組にとって一番の壁が「譜読み」ではなく「指の動き」だからです。左手が単音で最小限の動きに抑えられた編曲なら、指を慣らしながら何曲も仕上げられます。原則2ページで1曲が完結する構成は、忙しい大人が短い時間で区切りを作るのにも向いています。

何曲か弾けるようになったら、目標をB(初級上)の原曲に置きましょう。エリーゼのためにのように、耳なじみがあり、冒頭が取り組みやすい曲が次のステップとして選びやすいはずです。以前の自分が弾けた曲にいきなり戻ろうとすると、記憶と実際の指の動きの差に戸惑いやすいので、公式ランクを一段下げて始めるくらいがちょうどよい距離感です。

五線譜に慣れていない完全初心者:ふりがな付きから始めて外していく

ピアノそのものが初めての人は、音名ふりがなと指番号付きの曲集から始めると、クラシックの名曲を早い段階で楽しめます。ドリーム・ミュージック・ファクトリーの曲集が想定しているのは、まさにこの段階の人です。

理由は、完全初心者にとって最初の壁が「五線のどこが何の音か」を読み取る作業だからです。ふりがながあれば、この作業を飛ばして鍵盤を押すところまで進めます。名曲を弾けたという手応えは、練習を続ける原動力になります。

ただし、ふりがなに頼り続けると、いつまでも五線譜が読めないままになる点には注意が必要です。前の見出しで触れたように、慣れてきたらふりがなを隠して読む時間を少しずつ増やしましょう。ト音記号やヘ音記号の読み方は、別の記事でまとめて整理しています。

子どもの保護者:グレード試験は「段階を確認する道具」として使う

子どもにピアノを習わせている保護者の場合、曲選びと並んで気になるのがグレード試験です。ヤマハ音楽振興会の案内では、ヤマハグレードの初心者グレードは、先生が試験官となり、いつもレッスンを受けている場所で受験が可能で、試験も先生との相談の上でいつでも実施可能とされています(2026年9月時点)。カワイにも、初心者向けの級から順番に受験できるグレード制度があります。

こうした制度を保護者の立場で活用するなら、「合格するための目標」ではなく「いまの段階を確認する道具」として捉えるのが合っています。初心者グレードのように普段の環境で受けられる仕組みは、子どもが緊張しすぎずに自分の到達点を確かめられるように設計されています。

Q 子どもがジムノペディを弾きたがっています。ブルグミュラーを終えていなくても大丈夫ですか?
A 原曲の版の場合、広い音域やつかみにくい和音がブルグミュラーでは出てこないため、子どもには難しく感じやすい曲とされています。手の大きさの壁があるので、まずはかんたんアレンジ版で雰囲気を楽しみ、原曲は手が和音に届くようになってから先生と相談して取り組むのが無理のない順番です。
Q アレンジ譜ばかり弾いていると、上達が遅くなりませんか?
A アレンジ譜は左手の音数や手の広がりを削っているので、それだけでは原曲に必要な技術は身につきにくい面があります。教本やB(初級上)の原曲と並行し、アレンジ譜は「弾きたい曲を楽しむ時間」と役割を分けると、両方の良さを生かせます。

「何ヶ月で弾けるか」の目安と、その前提条件

「どのくらい練習すれば簡単なクラシックが弾けるのか」は、どの読者タイプにも共通する疑問です。ひとつの目安として、3~6ヶ月で簡単な1曲を弾き通せるようになることが多いとされています。

ただし、この数字にはいくつもの前提があります。短い時間でも定期的に鍵盤に触れていること、選んだ曲が初心者向けの条件(短い・繰り返しが多い・ゆっくり)を満たしていること、楽譜が自分の段階に合った版であること。このどれかが欠ければ、期間は長くも短くもなります。ピアノ学習1~2年程度でブルグミュラー程度に到達する、という進度の目安も同様に、あくまで平均的な道のりを示したものです。

期間の数字を「締め切り」として受け取ると、予定より遅れたときに焦りが生まれます。数字は計画を立てるための参考にとどめ、判断の基準は「前の曲より止まらずに弾けるようになったか」「公式ランクで一段上の曲に手が届くようになったか」に置きましょう。練習時間の組み立て方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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まとめ:「簡単」は公式ランクと楽譜の設計で決まる

🎹 この記事の結論

簡単なクラシック曲は、全音ピアノピースのA・B表記とかんたんアレンジ譜から選べます。知名度ではなく公式ランクを確かめてから楽譜を選びましょう。

✅ 要点チェック
  • ✔ 公式ランク:全音はA初級〜F上級上の6段階
  • ✔ 定番曲の差:エリーゼB・カノンC・トロイメライD
  • ✔ 入門の条件:短い・繰り返し・ゆっくりの3つ
  • ✔ アレンジ譜:長さと左手の音数を削った設計
  • ✔ 練習の順番:片手・部分・ゆっくりから両手へ

最初の一歩としては、弾いてみたい曲を1曲決めて、全音ピアノピースの公式ページや楽譜の表紙でその曲のランクを確認してみてください。AかBなら原曲の版で、それより上ならかんたんアレンジ譜から始める。この1回の確認が、途中で止まらずに1曲を弾き通すための一番確実な準備になります。弾けた1曲は、次に一段上のランクへ進むための足場にもなります。

※難易度表記・収録内容は2026年9月時点の各出版社公式情報に基づきます。最新情報は公式サイトでご確認ください。

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ピアノと音楽の教科書編集部です。テーマに関する基礎知識や選び方を、公式情報など確認できる情報をもとに編集しています。掲載後も定期的に見直し、変更があれば更新します。

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