ピアノの価格表を眺めていると、同じ「88鍵のグランドピアノ」なのに100万円台のモデルと数千万円のモデルが並んでいて、何がそこまで違うのか戸惑う方は多いと思います。鍵盤の数も、ペダルの本数も、見た目の形もほとんど同じ。それでも値段は数十倍に開いています。
結論から言うと、高いピアノの値段は「ブランド料」だけで決まっているわけではありません。響板に使う木材の選別、約10,000個にのぼる部品の精度、そして職人が手をかける工程の量。この3つが積み重なって価格になっています。ヤマハの資料では、トップモデルは3年という年月をかけて作られると紹介されています。
この記事では、電子ピアノ・アップライト・グランドの価格帯の違いから入り、なぜ価格差が生まれるのかを楽器の構造で説明します。そのうえで、国産と海外メーカーのフラッグシップモデルの価格を一覧にし、購入を検討するときに試弾で確かめるべき点まで整理しました。買い替えを勧める記事ではなく、「なぜ高いのか」を理解して自分で判断するための材料としてお使いください。
・電子ピアノ/アップライト/グランドの価格帯と、その順番が決まっている理由
・同じ88鍵で価格が数十倍に開く構造上の原因(部品数・アクション・響板)
・ヤマハ、カワイ、世界3大ピアノのフラッグシップ価格の一覧
・高いピアノを選ぶ前に試弾で確かめる手順と、本体以外にかかる費用
高いピアノはいくらから?種類別に価格帯を先に整理する

価格の順番は「グランド>アップライト>電子」で固定されている
ピアノの価格は、グランドピアノが一番高く、次にアップライトピアノ、電子ピアノという順に安くなっていきます。この順番は、メーカーやグレードが変わってもほぼ入れ替わりません。
理由は音の出し方にあります。アコースティックピアノは鍵盤を押すとハンマーが弦を叩き、弦の振動が響板を伝ってピアノ全体が響く仕組みです。一方、電子ピアノはピアノの音を録音・サンプリングしたものを、センサーが打鍵を検知してスピーカーから鳴らします。弦・響板・大量の木材と金属部品を抱えるアコースティックは、材料費と組み立ての手間が桁違いに大きくなるわけです。
独学の方がよくつまずくのは、「上位の電子ピアノならグランドと同等」と考えてしまう点です。電子ピアノの上位機でも、音を生む仕組みそのものは別物です。ここを混同したまま比較すると、価格差が「割高」に見えてしまいます。
まず確認しておきたいのは、自分が比べているのが「同じ方式の中の価格差」なのか「方式そのものの価格差」なのかという点です。後者なら、値段の差はほぼ構造の差だと考えてよいでしょう。
新品グランドは約100万円から1000万円以上まで広がる
新品のグランドピアノは、約100万円~1000万円以上となることがあります。一般的な価格帯は200万円前後、そしてコンサート用の上位モデルになると数千万円に達します。
これほど幅が広い理由は、グランドピアノの中でも大きさとグレードが大きく違うからです。グランドの奥行きは150~280cmまであり、家庭のリビングに置ける小型機からホール用のフルコンサートグランドまで、同じ「グランド」という名前で呼ばれています。奥行きが長くなれば弦も響板も大きくなり、使う材料も工程も増えます。
よくある誤解は、「グランド=数百万円以上」と思い込み、最初から選択肢から外してしまうことです。入門価格帯のモデルは約100万円からあるので、上位のアップライトと予算が重なる場面もあります。
比較するときは、価格だけでなく奥行き(設置スペース)を一緒に見るのがコツです。同じ予算でも、置ける大きさによって選べるモデルが絞られてきます。
最も買われている価格帯はアップライトの約70万円
新品ピアノで最も多く買われている価格帯は、アップライトピアノの約70万円とされています。アップライト全体の価格範囲は50万~200万円程度で、「高いピアノ」を考えるときの基準点はこのあたりに置くと整理しやすくなります。
アップライトは、限られた設置面積でピアノ演奏が楽しめるよう弦を縦に張ってコンパクトにしたものです。高さは120~130cm程度で、壁際に置けるのが強みです。部品数や弦の長さでグランドより抑えられるぶん、価格も抑えられています。
電子ピアノは初心者向けで5~10万円程度、中級モデルで20~50万円程度、ハイグレードモデルは50万円以上とされ(販売店の目安で変動あり)、上位機はアップライトの入門価格に近づいてきます。ここで「どちらを選ぶか」で迷う方が多いのは自然なことです。
判断の目安は、弦の生音で練習したいか、音量を絞れることを優先するかです。価格の近さより、住環境と練習時間帯で決めたほうが後悔が少なくなります。
| 項目 | 電子ピアノ | アップライトピアノ | グランドピアノ |
|---|---|---|---|
| 音の出し方 | 録音した音をセンサー検知でスピーカーから発音 | 縦に張った弦をハンマーが叩く | 横に張った弦をハンマーが叩く |
| 部品数の目安 | 弦・響板なし | 7,000~8,000個 | 約10,000個 |
| 連打の目安 | 機種により異なる | 毎秒7音程度 | 毎秒14音まで |
| 新品価格の目安 | 5~10万円程度(初心者向け)から | 約70万円が最多価格帯 | 約100万円~1000万円以上 |
同じ88鍵なのに、なぜ値段が数十倍も違うのか
部品数は約10,000個と7,000~8,000個で違う
グランドピアノの部品数は約10,000個、アップライトピアノは7,000~8,000個とされています。鍵数はどちらも88鍵で同じなのに、中身の部品数には2,000個以上の開きがあります。
この差は、主にアクション(鍵盤の動きをハンマーに伝える機構)と弦・響板まわりの構造から生まれます。88鍵ぶんのアクションは、1鍵ごとに複数の木製・金属・フェルト部品が組み合わさった精密な機構です。部品が増えれば、それぞれを作り、組み、調整する手間がそのまま積み上がります。
見落とされやすいのは、「部品数」は単なる数ではなく「調整箇所の数」でもある点です。1つ1つの部品がわずかにずれるだけで、鍵盤の重さや音の立ち上がりが変わります。高価格帯のピアノほど、この調整に人の手と時間を使っています。
ピアノの価格表を見るときは、「この値段には何個の部品の調整が含まれているのか」という目で見ると、数字の見え方が変わってきます。

弦の向きが連打の速さを決めている
グランドピアノは毎秒14音まで連打でき、アップライトは毎秒7音程度とされています。この差を生んでいるのは、弦を横に張るか縦に張るかという構造の違いです。
グランドピアノは弦が横(水平)に張ってあり、ハンマーは下から弦を叩いて自重で戻ります。そのためハンマーが完全に戻りきらなくても次の打弦ができ、素早い連打やトリルが可能になります。アップライトは弦が縦なので、ハンマーは横方向に動き、重力ではなくバネなどの力で戻す必要があります。この戻りの仕組みの差が、連打性能の差になって現れます。
具体的には、同じ音を細かく繰り返すトレモロや、2音を高速で交互に弾くトリルで差が出ます。アップライトで練習してきた人が発表会のグランドで弾くと、「鍵盤が戻ってくるのが速い」と感じるのはこのためです。
速いパッセージの多い曲を目標にしているなら、連打性能はグランドとアップライトの価格差を納得する大きな材料になります。逆に、ゆったりした曲が中心なら、この差を優先しすぎる必要はありません。
電子ピアノは弦がないから価格構造が別物になる
電子ピアノの価格は、弦や響板ではなく「鍵盤の機構」と「音源・スピーカー」に振り向けられています。そのため、アコースティックと同じ物差しで高い・安いを比べることはできません。
電子ピアノは、ピアノの音を録音・サンプリングした音源を使い、センサーが打鍵を検知してスピーカーから音を出します。鍵盤には樹脂鍵盤と木製鍵盤の選択肢があり、木製鍵盤は材料と加工にコストがかかるため価格が上がります。アコースティックの価格要因のうち「鍵盤素材」だけは電子ピアノにも共通しているのです。
独学の方がつまずきやすいのは、電子ピアノの上位機を「アコースティックの代わり」として買い、あとで弦楽器としての響きの違いに気づくパターンです。電子ピアノの価格が上がって近づくのは主にタッチの感触であって、弦と響板が共鳴する仕組みそのものではありません。
電子ピアノを選ぶなら、価格を見る前に「鍵盤素材は樹脂か木製か」を確認しましょう。そこが価格差の大部分を説明してくれます。
電子ピアノで仕上げた曲を本番のグランドで弾くと、連打やトリルで指と鍵盤がかみ合わず焦る——これは練習不足ではなく、ハンマーの戻り方が違うことが原因です。グランドはハンマーが自重で戻るため、鍵盤を戻しきらないうちに次の音が出ます。対策は、本番前に一度でもグランドで練習する時間を確保すること。レンタル練習室でグランドを使える施設もあります。
響板の木材が音と価格を左右する理由

スプルースが響板に選ばれるのは「倍音の整え方」に理由がある
アコースティックピアノの響板には、スプルース(エゾマツの仲間)が使われます。響板は弦の振動を増幅して音を響かせる部品で、ここに何の木を使うかが音色の土台を決めます。
スプルースをはじめとするエゾマツの仲間が響板材として重んじられるのは、高い倍音をより効果的に吸収し、まろやかに感じられる高さの音を豊かに響かせる特性があるためです。弦が鳴らす音には基音の上に多くの倍音が含まれていて、それをそのまま増幅すると耳に硬く聞こえます。響板材は「増幅器」であると同時に「フィルター」でもあるわけです。
ここでよくある誤解は、「響板は大きければよい」という考え方です。大きさはもちろん音量や低音の豊かさに効きますが、同じ大きさでも木材の質が違えば響き方は変わります。価格の高いピアノほど、この素材の選別に手間をかけています。
響板については、ヤマハの楽器解体全書(ピアノの豆知識)で素材の話が紹介されています。価格表を読む前に一度目を通しておくと、カタログの「響板材」の項目が読めるようになります。
樹齢100年以上で、節やヤニのない材だけが残る
響板用の木材は、樹齢100年以上の木から、節・ヤニ・曲がった木目がないものを厳選して使います。同じ年度のモデルなら、価格の高いピアノほど良い材料を使っているとされています。
なぜ節やヤニが問題になるかというと、響板は薄い板全体が均一に振動することで音を広げるからです。節があるとその部分だけ硬さや密度が変わり、振動が偏ります。木目の曲がりも同じで、振動の伝わり方にむらが出ます。1本の丸太から響板に使える部分は限られるため、厳選するほど材料の歩留まりは下がり、コストが上がります。
「素材の品質によってグレードが異なり、良い素材を使ったグレードの高いピアノほど表現の幅が広がる」という説明もあります。弱音から強音までの音色の変化の幅は、響板の質に左右されやすい部分です。
カタログで響板材を確認する際は、単に「スプルース」と書いてあるだけでなく、上位機種で産地や選別の基準が明記されているかを見比べると、グレード差の中身が見えてきます。
実は「最上の材」は時代とともに変わっている
意外と知られていないのが、響板材の主流が変わってきたという事実です。かつてトップクラスのピアノの響板にはヨーロッパトウヒ材が使われていましたが、最近は材料の枯渇により、ほとんどの製品に北米産のマツ科のスプルース材を用いるのが主流となっています。
これは、響板材が「どこでも手に入る木」ではないことを示しています。樹齢100年以上の条件を満たす木は、伐ってしまえば同じ品質のものが育つまで長い年月がかかります。材料が希少になればなるほど、ピアノの価格にはその希少性が反映されていきます。
ここで注意したいのは、「ヨーロッパ産でなければ音が劣る」と短絡しないことです。響きは木材の産地だけでなく、板の厚みの削り方、乾燥の仕方、支柱の配置など多くの要素で決まります。産地名だけで音を判断するのは、ワインを産地だけで評価するのに近い危うさがあります。
結局のところ、響板の良し悪しは耳で確かめるしかありません。カタログの素材表記は「なぜその価格なのか」を理解する手がかりとして使い、最終判断は試弾に委ねるのがよいでしょう。
響板は弦の振動を増幅する「スピーカー」であり、倍音を整える「フィルター」でもあります。材料はスプルース、条件は樹齢100年以上で節・ヤニ・曲がった木目がないこと。この選別の厳しさが、同じ年度のモデルの中で価格が上がるほど良い材料が使われる理由です。
製造に3年をかけるトップモデルは何に時間を使っているのか
手作業の比率が上がるほど価格が上がる
トップモデルは3年という年月をかけて作られ、職人による精緻な手作業が圧倒的に増えるとされています。価格が数十倍に開く最大の理由は、この「人の手をかける時間」の差です。
量産モデルは工程の多くを機械化することで、一定の品質を安定して作れるようにしています。一方、上位モデルでは、木材の選別、響板の仕上げ、アクションの調整などに職人が個別に手を入れます。1台ごとに素材の個性が違うため、それに合わせた調整は機械では置き換えにくいのです。
よくある失敗は、「手作業=音が良い」と単純に置き換えて考えることです。手作業の価値は、個体の癖を読み取って整える点にあります。量産モデルでも品質は十分に安定しており、目的によってはそちらのほうが合う場合もあります。
見極めのポイントは、自分が求めているのが「安定した標準品」か「個体の響きを追い込んだ1台」かです。前者なら量産モデル、後者なら上位モデルの価格に意味が出てきます。
部品の精度が調律の安定と音の伸びに効いてくる
高級ピアノほど部品ひとつひとつの精度が高く、調律の安定性や音の伸びが違うとされています。購入時の価格差は、使い続けるうちに「狂いにくさ」として返ってくる面があります。
ピアノの弦は強い張力で張られていて、その張力を支える部品の精度が低いと、時間とともに少しずつ音程がずれていきます。部品同士のかみ合わせが正確なら、振動のエネルギーが無駄なく伝わり、音が長く伸びます。アクション(メカニック)の精度もまた、鍵盤を押してから音が出るまでの反応を左右します。
見落としやすいのは、この精度の差が店頭の数分の試弾では分かりにくいことです。調律の安定性は何年も使って初めて表に出る性質なので、購入時にはカタログの説明や保証内容で補って判断することになります。
確認しておきたいのは、アクションの製法や調整についての説明がメーカー資料にどこまで書かれているかです。価格帯が上がるほど、その説明が具体的になっていく傾向があります。
アクション(メカニック)=鍵盤の動きをハンマーに伝え、弦を打たせる機構のこと。88鍵それぞれに独立した機構があり、グランドの部品数が約10,000個に達する主な理由です。
響板=弦の振動を受けて増幅し、ピアノ全体を響かせる薄い木の板。スプルースが使われます。
塗装や外装の仕上げも価格に含まれている
ピアノの価格には、塗装の仕上げも含まれています。同じモデルでも外装の仕上げが違うだけで価格が変わるのは、そのためです。
ピアノの外装塗装は、塗っては研ぐ工程を何度も繰り返して仕上げます。木目を生かした仕上げや、光沢の深い仕上げほど手間がかかります。ヤマハのCシリーズやCXシリーズで同じシリーズ名なのに価格に幅があるのは、サイズの違いに加えて仕上げの違いがあるためです。
ここでの注意点は、外装の仕上げは音にはほとんど関わらないということです。見た目の好みで選ぶのは自由ですが、「高い仕上げ=音が良い」と誤解して予算を外装に振り向けると、肝心の響板やアクションのグレードを下げることになりかねません。
予算に限りがあるなら、まず音と鍵盤に関わるグレードを決め、残った余裕で外装を選ぶ順番がおすすめです。
高いピアノは「資産」になるのか
高価格帯のピアノは、30年経っても買取価格が安定しているという説明が販売店から出ることがあります。ただし、これは手入れが行き届いていることが前提の話です。
アコースティックピアノは木と金属と羊毛(フェルト)でできた楽器なので、湿度管理や定期的な調律がなされていないと、響板の割れやアクションの不具合が起きます。そうなれば査定は大きく下がります。価格が安定するのは「ブランド」ではなく「状態が保たれた個体」だと考えるべきでしょう。
陥りやすいのは、「いずれ売れるから高くても元が取れる」と考えて予算を超えた購入をしてしまうパターンです。中古相場は需要や時期によって変動しますし、売却時には運搬費もかかります。投資として計算に入れるのは避けたほうが安全です。
資産価値はあくまで「手放すときに困りにくい」程度の副次的なメリットとして捉え、購入の主な理由は弾き心地と音に置くのが健全な判断です。
国産から世界3大ピアノまで、フラッグシップの価格を並べると
ピアノと音楽の教科書調べ:メーカー別フラッグシップ価格一覧
各メーカーのコンサートグランド(フラッグシップ)の新品価格を並べると、国産も海外メーカーも、どれも「数千万円」の帯に入っています。一般的なグランドの価格帯が200万円前後であることを考えると、上位モデルはその10倍を超える価格帯にあるわけです。
以下の表は、販売店が掲載している価格をもとに、当サイトで整理したものです。いずれもメーカーの最上位クラスに位置づけられるモデルです。
| メーカー・モデル | 位置づけ | 新品価格の位置(販売店掲載値の比較) |
|---|---|---|
| ヤマハ CFX | ヤマハのフルコンサートグランド。19年かけて開発 | 数千万円。5機種の中では最も低い価格帯(SK-EXと同額) |
| カワイ SK-EX | 1981年のEXモデルから進化したフルコンサートグランド | 数千万円。CFXと同額で並ぶ |
| ベヒシュタイン D-282 | 国際的な演奏家との協力で開発した2023年モデル | 数千万円。国産2機種より上 |
| スタインウェイ D-274 | 274cmのコンサートグランド | 数千万円。D-282より上 |
| ベーゼンドルファー Model 290 Imperial | 同社のフラッグシップ。通常生産ピアノの中で高い価格帯 | 数千万円。5機種の中で最も高い |
表を読むときに押さえておきたいのは、これらがいずれも家庭向けではなく、ホールやコンサート用の最大級モデルだという点です。家庭で「高いピアノ」を検討する場合、比較対象になるのは各社のもっと小さなモデルになります。
国産2社のフラッグシップは価格まで横並び
ヤマハCFXとカワイSK-EXは、販売店の掲載価格がまったくの同額で並んでいます。国産メーカーのトップモデル同士が同じ価格帯にあるのは、どちらも世界のコンサートホールで海外メーカーと比べられる楽器として作られているからです。
CFXは19年かけて開発されたヤマハのフルコンサートグランドです。SK-EXは1981年のEXモデルから進化し、最新の技術を取り入れたフルコンサートグランドとされています。どちらも開発の時間軸が長く、研究開発に費やした年月そのものが価格に反映されていると考えられます。
誤解しやすいのは、「国産だから海外製より安い」という先入観です。確かに海外3社のフラッグシップより低い価格ですが、国産トップモデルの価格は、ベヒシュタインやスタインウェイの中型モデルに近い水準です。国産のトップモデルは決して廉価版ではありません。
国産と海外を比べるときは、同じ「フラッグシップ」同士か、同じ「奥行きのクラス」同士かを揃えて比べると、価格差の意味が見えやすくなります。
価格表を読むときに見落としやすい3つの点
価格表を見るときは、「どの大きさのモデルか」「価格に幅があるか」「改定される可能性があるか」の3点を意識すると読み違いを防げます。
1つ目は大きさです。スタインウェイD-274は274cmのコンサートグランドで、グランドの奥行き150~280cmの上限に近いクラスです。大きさが違うモデルを並べて「このメーカーは高い」と判断するのは、軽自動車と大型車を比べるのと同じです。2つ目は価格の幅です。ヤマハのCシリーズのように、同じシリーズ名でも仕様や仕上げによって価格が変わるモデルがあります。3つ目は改定です。海外メーカーの価格は為替や原材料の影響を受け、改定されることがあります。
陥りやすいのは、ネットで見つけた数年前の価格表をそのまま信じてしまうことです。高価格帯のピアノほど改定の影響額も大きくなります。
検討段階に入ったら、ヤマハのピアノの選び方ページなど、メーカーや正規販売店の最新情報で価格を確かめるようにしましょう。
世界3大ピアノと国産トップモデルは何が違うのか
「世界3大ピアノ」は規模ではなく音楽家からの信頼で決まっている
世界3大ピアノと呼ばれるのは、スタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインの3社です。多くの音楽家から深く信頼され、評価が特に高いブランドとして知られています。
この「3大」は、生産台数や売上の大きさで決まっているわけではありません。コンサートの舞台や録音の現場で長く使われ、演奏家からの評価を積み重ねてきた歴史が呼び名の根拠です。3社とも、1000万円の予算から上を求められるピアノとされています。
よくある誤解は、「3大ピアノ=世界で一番売れているピアノ」と思うことです。販売台数の多さと、舞台での評価は別の物差しです。家庭用のピアノとして広く普及しているのは、むしろ国産メーカーのほうだと考えてよいでしょう。
3大ピアノを検討するかどうかは、「予算が1000万円以上か」「その響きを求める理由があるか」の2つで判断すると迷いにくくなります。

「世界三大ピアノ」という言葉は聞いたことがあるけれど、どの3社を指すのか、なぜその3社なのかまでは説明できない——ピアノを習っている人でも、ここで止まっている方…
3社の製造国と個性の違い
スタインウェイはアメリカ製とハンブルク製(ドイツ)、ベーゼンドルファーはオーストリア製、ベヒシュタインはドイツ製です。同じ「3大」でも、製造地と歩んできた歴史はそれぞれ違います。
スタインウェイは170年の職人技と表現の追求を掲げており、グランドピアノのモデルは7種類あります。ベーゼンドルファーはオーストリア製のピアノの代名詞とされ、Model 290 Imperialがフラッグシップです。ベヒシュタインは国際的な演奏家との協力で開発を進めていて、コンサート用のD-282は2023年モデルです。
| スタインウェイ | アメリカ製・ハンブルク製。グランドは7種類。フラッグシップはD-274(274cm) |
| ベーゼンドルファー | オーストリア製。フラッグシップModel 290 Imperialは3社の中でも最も高い価格帯 |
| ベヒシュタイン | ドイツ製。コンサート用D-282は国際的な演奏家と協力して開発した2023年モデル |
| 向いている人・用途 | 1000万円以上の予算があり、特定の響きを求める演奏家・ホール・愛好家 |
つまずきやすいのは、ブランドの評判だけで「自分にも合う」と決めてしまうことです。3社は音色やタッチの方向性が異なり、演奏家の間でも好みが分かれます。どれが上という話ではなく、どれが自分の表現に合うかの話です。
3社を比べるなら、同じ曲を持参して弾き比べるのが確実です。響きの違いは、言葉で読むより耳で聴いたほうがはるかに早く分かります。
実は国産トップモデルも同じ土俵で比べられている
意外と見落とされがちですが、国産のヤマハCFXとカワイSK-EXは、世界3大ピアノと同じコンサートの舞台で比べられる楽器です。価格も、3大ピアノのフラッグシップと同じ「数千万円」の帯に入っています。
「3大」という呼び名が定着したのは、国産メーカーがコンサートグランドの分野に本格的に参入する前からの歴史によるものです。呼び名に入っていないからといって、国産トップモデルが格下だということにはなりません。CFXが19年という開発期間をかけたこと、SK-EXが1981年のEXモデルから改良を重ねてきたことは、この分野にどれだけの研究が注がれてきたかを示しています。
ありがちな失敗は、「3大ピアノでなければ本物ではない」という思い込みで選択肢を狭めることです。国産モデルは国内の販売網が広く、調律や修理を依頼しやすいという実務上の強みもあります。
比較するときは、ブランド名を外して「音」「タッチ」「アフターサービスの受けやすさ」の3点で並べてみると、自分に必要なものが見えてきます。
高いピアノを選ぶ前に、試弾で確かめておきたいこと
目的と予算を先に決めると、選ぶべき価格帯が絞れる
高いピアノを選ぶ最初のステップは、目的と予算を明確にすることです。ここが曖昧なまま店に行くと、上位モデルの音に引っ張られて予算を大きく超えてしまいがちです。
目的によって、見るべき価格帯は大きく変わります。たとえば、ブランクから再開した大人の方が自宅で楽しむなら、アップライトの約70万円前後の帯やグランドの入門価格帯(約100万円から)が現実的な比較対象です。子どもが音大受験を目指すなら、連打性能の高いグランドを候補に入れる意味が出てきます。自宅での演奏会や録音を想定するなら、上位のグランドを検討する余地があります。
見落としがちなのは、夜間の練習が必要な家庭です。サイレント機構を付けるとヤマハの場合は50万~100万円以上の追加コストがかかるとされ、本体価格だけで予算を組むと足りなくなります。
予算は「本体+オプション+配送+毎年の調律」の合計で考えましょう。そうすると、本体にかけられる金額が自然と絞れてきます。
ピアニッシモからフォルテッシモまで、大屋根の開閉で弾き比べる
試弾では、椅子に座ってピアニッシモ(とても弱く)からフォルテッシモ(とても強く)まで音量を変えながら弾くと、ピアノごとの音色の違いに気づけます。大屋根を全開にした状態と閉じた状態の両方で弾くのもポイントです。
なぜ音量の幅を試すのかというと、価格差が出やすいのは中くらいの音ではなく、弱音と強音の両端だからです。響板の質やアクションの精度が高いピアノほど、弱音でも音が痩せず、強音でも割れにくくなります。大屋根の開閉を試すのは、家庭では閉じて弾く場面が多いからです。店では開けた状態の響きに惹かれても、自宅では違って聞こえることがあります。
加えて、ペダルを使って流れのある曲を弾いてみることも勧められています。ペダルで音を重ねたときの響きの濁り方や伸び方は、単音を鳴らすだけでは分かりません。
試弾に持っていく曲は、弾き慣れた曲を1〜2曲に絞ると、ピアノの違いに意識を集中できます。
同じモデルでも1台ごとに音とタッチが違う
同じモデル名のピアノでも、個々の楽器によって音色やタッチに違いがあります。高いピアノほど、この「個体差」を前提に選ぶ必要があります。
理由は、ピアノの主要な部品が木でできているからです。響板の木材は1枚ごとに木目や密度が違い、手作業で仕上げる工程が多いほど、その個性が音に残ります。前の章で触れたように、トップモデルは手作業の比率が高いため、同じ型番でも「この1台」の響きが違ってくるのです。
店頭で1台だけ弾いて気に入り、同じ型番の別の個体(在庫品や取り寄せ品)が届いたら響きが違って感じた——これは不良ではなく、木材の個体差が原因です。対策は、同じシリーズのモデルを複数台弾き比べ、購入する「その1台」を試弾して決めること。取り寄せになる場合は、納品前に弾ける機会があるかを販売店に確認しておきましょう。
ピアノの選び方は「弾いてみて、タッチや音が気に入ったものを買う」というのが答えだ、という指摘もあります。カワイのグランドピアノの選び方コラムにも、試弾で確かめる点がまとまっています。
本体以外にかかる費用を見落とさない
高いピアノを買うときは、本体価格のほかに配送費、調律費、オプション機能の費用がかかります。調律は年1~2回、1回あたり10,000~15,000円が目安です。
アコースティックピアノは弦の張力と木材の変化で少しずつ音程がずれていくため、定期的な調律が欠かせません。高いピアノを買っても、調律を怠れば本来の響きは保てません。本体価格が高いほど、維持費を惜しんだときに失うものも大きくなります。

「ピアノの調律って、どのくらいの頻度でやればいいんだろう」。これ、ピアノを持っている人のほぼ全員が一度は迷う話です。買ったときは調律師さんが来てくれたけれど、あ…
見積もりを取るときは、本体価格とは別に「配送」「初回調律」「オプション」の項目が含まれているかを確認しましょう。
読者タイプ別に考える、高いピアノが必要な人・必要でない人
ブランクから再開する大人は「長く弾ける1台」を基準にする
大人になってピアノを再開する方にとって、高いピアノが必要かどうかは「何年弾くつもりか」で決まります。長く続けるつもりなら、アップライトの最多価格帯である約70万円前後や、グランドの入門価格帯を基準に考えるのが一つの目安です。
大人の再開者は、子どもの頃に弾いた曲をもう一度弾きたいという目的が多く、ショパンやドビュッシーのように弱音の表現が問われる曲を目標にすることもあります。こうした曲では、響板の質が音色の幅に効いてきます。一方で、生活リズムの中で夜に練習する必要がある方は、アコースティックの音量が制約になります。
よくある失敗は、「せっかく再開するなら」と予算を大きく超えたピアノを買い、置き場所や音量の問題で弾く時間が減ってしまうことです。高いピアノを買っても、弾けない環境では意味がありません。
まずは弾ける時間帯と置き場所を確認し、その条件の中で最も響きの良い1台を探すという順番がおすすめです。
子どもに習わせている保護者は「連打性能」を判断材料にする
子どもにピアノを習わせている保護者の方は、子どもの目標によって必要な価格帯が変わります。趣味として続けるならアップライトで十分な場合が多く、コンクールや音大受験を目指す段階ではグランドの連打性能が意味を持ってきます。
グランドは毎秒14音まで、アップライトは毎秒7音程度の連打が目安とされています。上級の練習曲やコンクールの課題曲には速い連打やトリルが含まれることが多く、アップライトで練習していると本番のグランドで感覚がずれることがあります。
陥りやすいのは、始めたばかりの段階で「いずれ必要になるから」とグランドを買ってしまうことです。子どもが続けるかどうか分からないうちは、住環境と予算に無理のない選択が優先です。
買い替えのタイミングは、「連打で音が抜ける」「弱音がコントロールしにくい」といった具体的な困りごとが出てきたときが一つの目安になります。
電子ピアノで十分な人もいる
住環境や練習時間帯によっては、高いピアノより電子ピアノのほうが合う人もいます。電子ピアノは5~10万円程度の初心者向けから、50万円以上のハイグレードモデルまであり(販売店の目安で変動あり)、音量を絞れる点が大きな強みです。
集合住宅で夜しか練習できない方、転居の予定がある方、まずは続けられるか試したい方にとって、アコースティックの高いピアノは負担が大きい選択です。電子ピアノは弦と響板を持たないため、調律の必要もありません。
注意したいのは、電子ピアノを選ぶ場合でも鍵盤素材は確認しておくことです。樹脂鍵盤か木製鍵盤かで、タッチの感触と価格が変わります。将来アコースティックに移る可能性があるなら、木製鍵盤のモデルを候補に入れておくと移行がなめらかになります。
「高いピアノ」を選ばないことも、立派な判断です。大切なのは、自分の環境で毎日弾ける楽器を選ぶことです。
まとめ|値段の理由を知ってから弾き比べる
最初の一歩は、ショールームで「同じシリーズの2台」を弾き比べてみることです。高いピアノと安いピアノを比べるより、同じ型番の個体差を感じたほうが、価格の中身である木材と手作業の違いが耳で分かります。そのうえで、本体・オプション・年1~2回の調律費を合わせた予算で、自分の環境に合う1台を探してみてください。
※価格は2026年9月時点の販売店掲載値で、改定されることがあります。最新情報は各メーカー・正規販売店の公式サイトでご確認ください。

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