新しい曲の楽譜を開いたのに、最初の1小節で手が止まる。「ド・レ・ミ……」と下から数え上げて音を確かめ、やっと1音鳴らしたころには次の音を忘れている。そしてもう一度、最初の音から数え直す——譜読みが苦手だと感じている人の多くは、この往復に練習時間の大半を吸い取られています。
結論から言うと、譜読みが速い人は音符を1つずつ読んでいません。五線を「線」と「間」に分けて位置で覚え、音符を単体ではなく「かたまり」の形で認識し、和音やメロディの進み方から次に来る音を予測しています。譜読みの速さは目のよさや才能ではなく、読む順番の設計で決まる作業です。だから、順番を変えれば今日から変えられます。
この記事では、五線とクレフという土台の話から、音形パターンで読む方法、楽譜を開いてすぐ弾き始めないための下読み手順、そしてハノンやチェルニーといった練習曲が譜読みのどこに効くのかまでを、仕組みの側から順に並べています。教える立場からのおすすめではなく、なぜそうなるのかという根拠つきで整理しました。
- 譜読みが遅くなる本当の原因と、「読む力」「置く力」の切り分け方
- ト音譜表とヘ音譜表を線と間に分けて覚える具体的な手順
- 音符をかたまりで見る読み方と、弾く前にすませる4つの確認
- 大人の再開組・子ども・グレード受験者それぞれの進め方と練習曲の使いどころ
譜読みが遅い人がやっている「1音ずつ数える」読み方

ドから数え上げる癖は、テンポより先に記憶が崩れる
譜読みが進まない人の読み方を分解すると、ほぼ例外なく「基準の音を探す→そこから1つずつ数える→鍵盤上の位置を探す」という3ステップを、音符1個ごとに繰り返しています。1音あたり3ステップかかるということは、4分音符が8個並ぶだけの小節で24回の作業が発生するということです。これでは、音を出す前に頭のほうが先に疲れます。
やっかいなのは、この読み方が「読めている」感覚を伴うことです。時間さえかければ正解にたどり着けるので、間違った方法だと気づきにくい。けれど数え上げは、直前に読んだ音の記憶を消しながら進む作業でもあります。5音先まで進んだころには最初の音を忘れているため、フレーズとしてつながらず、何度弾いても手が覚えてくれません。テンポを上げられない原因は指の速さではなく、この認識のコストにあります。
対策はシンプルで、数える出発点を減らすことです。五線のどこか1か所からしか数えられない状態を、線の音・間の音という2系統の基準に増やすだけで、1音あたりの移動距離が縮みます。次の見出しで扱う「線と間を分ける」読み方は、そのための土台です。
音符は読めるのに手が止まるのは、目と手が同時に動いていないから
「音名は言えるのに弾けない」という相談は多いのですが、これは譜読みの問題ではなく、同時進行の問題です。演奏中は、いま鳴らしている音を出しながら、先の音符を読み進める必要があります。島村楽器の解説でも、演奏時には「現在の音を出しながら先の音符を読む必要があります」と、運動と知的作業のデュアルタスクである点が指摘されています。
ところが独学で練習していると、「読む→弾く→また読む」という交互作業になりがちです。交互では、音を鳴らしている間、目は止まっています。その止まっている時間ぶんだけ、次の音への準備が遅れる。結果として、正しい音を正しい順番で弾いているのに、音楽としては途切れ途切れになります。
切り替えのきっかけになるのは、視線を先に置く練習です。いま弾いている音符ではなく、その1つか2つ先の音符に目を置いたまま指を動かす。最初は必ず崩れますが、崩れるということは、それまで目が手についていっていた証拠でもあります。テンポを落として、目を先行させたまま弾ける速度を探すところから始めます。
【失敗パターン1】右手を完璧に仕上げてから左手を読み始める
独学で最も多い遠回りが、右手だけを何日もかけて仕上げ、それから左手の譜読みに入るやり方です。一見効率がよさそうですが、両手を合わせる段階で必ずつまずきます。理由は、楽譜が「横のつながり」と「縦の重なり」の両方でできているからです。片手ずつ完成させると、どの音とどの音が同時に鳴るのかという縦の情報を、あとからもう一度読み直すことになります。
さらに問題なのは、左手のヘ音譜表がいつも後回しになることです。ト音譜表は毎日読むのにヘ音譜表は数日に一度しか触れない、という偏りが続けば、苦手はそのまま固定されます。「左手が読めない」と感じている人の多くは、読む機会そのものが右手の何分の一かしかありません。
対策は、区切りを「手」ではなく「小節」に変えることです。2〜4小節という短い単位を決め、その範囲だけを右手→左手→両手の順で回す。範囲が短ければ両手を合わせる負担も小さく、縦の関係を最初から目に入れたまま進められます。仕上げるのは曲全体ではなく、短い区画だと考えると切り替えやすくなります。
「右手を完璧にしてから左手」は、譜読みの回数そのものを右手に偏らせます。左手が読めないのではなく、左手を読んだ回数が足りていないだけ、というケースが少なくありません。区切りは手ではなく小節で決めましょう。
譜読みは「読む力」と「置く力」の2つに分かれている
行き詰まったときに最初にやるべきは、原因の切り分けです。譜読みという作業は、楽譜上の記号を音名とリズムに変換する「読む力」と、その音名を鍵盤上の位置に変換して手を運ぶ「置く力」に分けられます。どちらが弱いかで、やるべき練習が正反対になります。
切り分け方は簡単です。ピアノを弾かずに楽譜を手に取り、音名を声に出して読んでみてください。島村楽器の解説では、この音名読み(固定ド唱法)はリズムを無視してもよく、目的は「認識のスピード」を上げることだと説明されています。声に出してスラスラ読めるなら、読む力は足りていて、詰まっているのは置く力のほうです。逆に、声に出す段階で止まるなら、鍵盤に向かう前に譜表の読み方を作り直す必要があります。
置く力が原因だった場合は、鍵盤を見ずに音を出す練習が効きます。読む力が原因だった場合は、次の見出しの線と間の整理から入ります。同じ「譜読みが苦手」でも入り口が違うので、ここを飛ばして練習量だけ増やしても、伸びない時間が長引きます。
譜読みのコツは五線を「線と間」に分けて覚えること
ト音譜表は線がミ・ソ・シ・レ・ファ、間がファ・ラ・ド・ミ
五線は5本の線と、その間の4つのすき間でできています。この2つを混ぜて「下から順にミ・ファ・ソ・ラ……」と1列で覚えようとすると、9個の連続した情報になり、途中で必ず迷子になります。そこで、線の上に音符が乗っている場合と、間にはさまっている場合を、別の系統として覚えます。
ト音譜表では、線の音が下から順にミ・ソ・シ・レ・ファ、間の音が下から順にファ・ラ・ド・ミです。どちらも1つ飛ばしの並びになっているのがポイントで、これは音符が線→間→線と上がっていくときに音名が1つずつ進むからです。覚え方は理屈より反復が効きます。線の音「ミ・ソ・シ・レ・ファ」、間の音「ファ・ラ・ド・ミ」を、呪文のようにそのまま繰り返し唱えてしまうのが近道です。
そもそもト音記号が「ト音」と呼ばれるのは、ソの音が日本語で「ト」と呼ばれるからです。記号の渦の中心が第2線を巻いており、その第2線がソにあたります。基準がここにあると分かっていれば、うろ覚えになったときも「渦の中心がソ」から数え直せます。
ヘ音譜表は第4線の「ファ」を起点に組み立てる
ヘ音記号がヘ音記号と呼ばれるのも同じ理屈で、ファは日本語で「ヘ」と呼ばれるためです。ヤマハの音楽解説サイトでも、ファは日本語で「へ」と呼ばれるためこの記号は「ヘ音記号」と呼ばれる、と説明されています。記号の2つの点にはさまれた第4線が、そのファです。
この1点さえ固定できれば、残りは1つ飛ばしで組み立てられます。第4線がファなら、第5線はラ、第3線はレ、第2線はシ、第1線はソ。線の音は下から順にソ・シ・レ・ファ・ラとなり、間の音は下から順にラ・ド・ミ・ソになります。ト音譜表と並びが総入れ替えになるので、ト音譜表の記憶をそのまま流用しようとすると混乱します。別の譜表として、独立して覚え直すほうが結局は早く済みます。
初心者がヘ音譜表でつまずくのは、ト音譜表との対応関係を頭の中で変換しようとするからです。「ト音譜表ならこの位置だから、2つずらして……」という変換は、1音ごとに余計な計算を挟む読み方で、先ほどの数え上げと同じ構造です。左手の楽譜には左手専用のルールがある、と割り切ってしまいましょう。

中央ドは2つの譜表をつなぐ、加線1本の音
ト音譜表とヘ音譜表は別々の世界ではなく、中央ド(ミドルC)でつながっています。ト音譜表では、五線の下に加線を1本引いた、その線の上に乗る音が中央ドです。実際、ト音記号の下第1線がド、下第1間がレという位置関係になっています。ヘ音譜表では逆に、五線の上に加線を1本引いた、その線の上が中央ドです。
つまり、大譜表の真ん中にある同じ1つの音を、上の段からも下の段からも書けるということです。同じ音が2通りの書かれ方をすると知っているだけで、「右手の楽譜なのに下にはみ出した音」「左手の楽譜なのに上にはみ出した音」で固まることがなくなります。ヘ音記号の下第1線がミ、下第1間がファという関係も同様に、五線の外側は加線を数えて延長していけば読めます。
加線が2本、3本と増える音は、その場で数えるのではなく、よく出てくる高さだけを形で覚えるのが実用的です。曲の中で繰り返し出てくる加線の音は、たいてい数種類しかありません。出てくるたびに数え直すより、最初に一度だけ確認して鉛筆で音名を書き込み、次からは形で認識するほうが、結果的に早く卒業できます。
加線=五線に収まらない高さの音を書くために、五線の上下に短く足す線のこと。譜表=音部記号(クレフ)と五線をセットにした、音の高さを表すための枠組み。ト音記号を置けばト音譜表(高音部譜表)、ヘ音記号を置けばヘ音譜表(低音部譜表)になり、同じ位置に書かれた音符でも指す音が変わります。
覚えるのではなく「唱える」——弾かずに音名だけ読む時間を作る
線と間の並びを知っても、実際の楽譜で反応できなければ意味がありません。ここで効くのが、ピアノを弾かずに楽譜を声に出して読む訓練です。リズムは無視してかまいません。目的は演奏ではなく、音符を見てから音名が出てくるまでの時間を短くすることだからです。
やり方は、練習中の曲でも、終わった曲でもかまいません。楽譜を手に持って、音名を頭から声に出して読み上げます。詰まったところには印をつけ、そこだけをもう一度読む。鍵盤に向かっていないので、指の都合に邪魔されず、純粋に認識のスピードだけを測れます。1曲まるごとやる必要はなく、数段ぶんで十分です。
このとき「ド・ミ・ソ」「レ・ファ・ラ」といった1つ飛ばしのグループを繰り返し唱えると、パターン認識の精度が上がります。単体の音を9通り覚えるのではなく、飛ばしの並びごとまとめて口に入れてしまう発想です。移動時間や、ピアノが弾けない夜の時間でもできるので、練習時間が細切れになりがちな大人ほど効果が出やすい訓練になります。
| 項目 | ト音譜表(高音部譜表) | ヘ音譜表(低音部譜表) |
|---|---|---|
| 記号の由来と基準音 | ソ=日本語で「ト」。第2線がソ | ファ=日本語で「ヘ」。第4線がファ |
| 線の音(下から) | ミ・ソ・シ・レ・ファ | ソ・シ・レ・ファ・ラ |
| 間の音(下から) | ファ・ラ・ド・ミ | ラ・ド・ミ・ソ |
| 中央ドの位置 | 五線の下、加線1本の上(下第1線) | 五線の上、加線1本の上 |
| 主に受け持つ手・楽器 | ピアノ右手、ヴァイオリン、フルートなど高音域楽器 | ピアノ左手、チェロ、ファゴットなど低音域楽器 |
出典:ヤマハ「音楽の基礎知識・音符の名前」ほか公開資料をもとに当サイトで整理
音符は1個ずつではなく「かたまり」で見る

ドミソ・レファラ——1つ飛ばしのグループは、そのまま和音になる
五線の上で音符が1つ飛ばしに並んでいるとき、それは線→線→線、または間→間→間という同じ系統の並びです。ド・ミ・ソ、レ・ファ・ラ、ミ・ソ・シというグループは、見た目としては「団子が縦に3つ積まれた形」か「一段ずつ階段状に飛んでいる形」になります。この形を覚えてしまえば、真ん中の音を読む必要がなくなります。
ここが重要なのですが、1つ飛ばしの3音はそのまま三和音です。つまり音形パターンの記憶は、そのまま和音の理解につながっています。左手の伴奏が分散和音でできている曲なら、実際に読む必要があるのは一番下の音と積み方だけで、残りは形から自動的に決まります。1小節に12個の音符があっても、読む情報は3つか4つに減らせます。
逆に言えば、この読み方をしないまま伴奏形の多い曲に進むと、音符の数だけ作業量が増えていきます。譜読みにかかる時間が曲の後半で急に伸びる人は、たいていここで消耗しています。まずは「1つ飛ばしは1かたまり」という見方に切り替えるところから始めてください。
順次進行と跳躍を「形」で見分ける
メロディの動きは、隣の音へ進む順次進行と、離れた音へ飛ぶ跳躍のどちらかです。楽譜の上では、順次進行は線→間→線→間と交互に上がる階段の形、跳躍は同じ系統を飛び越す形として現れます。この2つを区別できるようになると、音名を確定させる前に手の動きの見当がつきます。
具体的には、階段の形が見えたら指を1本ずつ隣へ動かす準備をし、飛んでいる形が見えたら手そのものを移動させる準備をします。譜読みの段階で手が止まる原因の多くは、次の音の高さではなく、手をどこへ運ぶかの判断が遅れることです。形で先に判断できれば、音名を思い出しながら同時に手を運べます。
練習としては、楽譜に階段と跳躍の境目だけを鉛筆で印していくやり方が扱いやすいです。音名を全部書き込むと形を見なくなってしまうので、書くのは動きの切れ目だけにします。数小節ぶんやってみると、曲の多くの部分が階段の形でできていて、跳躍は思ったより少ないことが見えてきます。
和音は一番下の音と積み方だけ読む
3つ4つの音符が縦に重なった和音を、上から順に1個ずつ読んでいくと時間がかかります。ここでも有効なのは、基準を1つに絞ることです。まず一番下の音だけを確定させ、そこから上が「1つ飛ばしで積まれているか」「どこかが詰まっているか」を形で見ます。1つ飛ばしで素直に積まれていれば、下の音が決まった時点で全部決まります。
詰まっている箇所、つまり隣り合った音が同時に鳴る形や、間隔が開いている形だけを個別に確認します。譜読みの初期段階では、和音の構成音を全部言えるようになる必要はありません。手の形として正しく鍵盤に置ければ、演奏としては成立します。名前を言えることと弾けることは別の作業です。
ただし、同じ和音が曲中で何度も出てくる場合は、一度だけ構成音を確認しておく価値があります。2回目以降は形だけで通せますし、あとで暗譜する段になったときに、指の記憶だけに頼らずに済むからです。この「一度だけ丁寧に、次からは形で」という配分が、譜読みの効率を大きく左右します。
実は、譜読みが速い人ほど全部の音符を読んでいない
意外と知られていないのですが、譜読みが速い人は、目に入る音符の情報量を減らす方向に努力しています。1つ飛ばしのグループ、階段の形、繰り返されるパターン——これらをひとまとまりとして扱うことで、実際に読み取っている情報の個数を減らしているわけです。読むのが速いのではなく、読む対象が少ない。ここが決定的な差です。
この視点に立つと、「全部の音符を正確に読まなければ」という真面目さが、かえって足を引っ張っていることが分かります。もちろん最終的には全部の音が正しく鳴る必要がありますが、それは読解の順序の話ではありません。骨格から入り、細部を後から埋めるほうが、音楽としての形も早く見えてきます。
譜読みで削るべきなのは、読む速度ではなく読む個数です。1つ飛ばしのグループ、階段状の順次進行、繰り返されるパターンをひとかたまりとして扱えば、同じ小節でも処理する情報は数分の一になります。
楽譜を開いてすぐ弾き始めないための4つの確認
調号を最初に見る——♯や♭を見落とすと、あとから直せなくなる
譜読みで最初に確認すべきは、音符ではなく調号です。曲の冒頭、音部記号のすぐ右に並んでいる♯や♭がそれで、以降その曲の中では、指示のない限り該当する音がすべて半音上下します。ここを見ないまま弾き始めると、間違った音のまま指が覚えてしまいます。
やっかいなのは、誤った音で覚えたあとの修正コストです。譜読みの段階なら1回直せば済むところが、100回弾いたあとでは、指のほうが先に動いてしまいます。特に曲の途中で臨時記号として現れる場合と、調号として最初から付いている場合では、意識の向け方が変わります。最初に「この曲では黒鍵になるのはどの音か」を口に出して確認しておくと、見落としが減ります。
調号は単なる約束事ではなく、その曲がどの音を中心に組み立てられているかを示す情報でもあります。中心となる音が分かっていれば、次の見出しで触れる予測読みの精度も上がります。ここは飛ばさずに、毎回30秒でも時間を取る価値があります。
拍子と速度表示で、リズムの土台を先に決める
次に確認するのが拍子です。1小節に何拍入るのか、何分音符を1拍と数えるのかが決まらないと、音符の長さを正しく配分できません。音の高さは合っているのにリズムだけ崩れるという場合、拍子の把握があいまいなまま音符の見た目だけで長さを判断していることがよくあります。
速度表示についても、譜読み段階では「最終的にこのくらいの速さになる」という目安として頭に入れるだけで十分です。むしろ大事なのは、その速度で弾かないと決めることです。譜読み中のテンポは、止まらずに進める速さまで落とします。指定より遅くても、音楽として通っていれば譜読みは進みます。
拍子とテンポを先に決めておくと、あとで「どこが読めていないか」の判断もしやすくなります。決めた速さで通せない箇所=まだ譜読みが終わっていない箇所、という単純な基準ができるからです。
繰り返し記号で、曲の地図を先に作る
3つ目は、曲の構成を確認する作業です。反復記号やダ・カーポ、ダル・セーニョなどによって、演奏する順番は楽譜に書かれている順番と一致しないことがあります。これを知らずに頭から譜読みを進めると、実際には2回通る部分と1回しか通らない部分を、同じ労力で読むことになります。
先に構成を把握しておけば、譜読みの配分も変えられます。繰り返しで2回出てくる部分は、1回読めばそのぶん練習効率が倍になる区画です。逆に、1回しか出てこない部分や、繰り返しのあとに現れる別の終わり方の部分は、練習回数が不足しがちなので意識的に回数を確保します。
楽譜に演奏順の番号を鉛筆で書き込んでしまうのも実用的です。譜読みの段階では、記号の名前を暗記することよりも、自分がどの順に弾くのかが分かっていることのほうが重要です。

楽譜を読んでいて、曲の途中で急に「D.S.」と書かれていて手が止まった経験はありませんか。あるいは、リピート記号の点が左右どちらを向いているのか分からなくなって…
指使いは、弾き始める前に決めて書き込む
4つ目は運指です。譜読みのたびに違う指で弾いていると、指はいつまでも動きを覚えられません。特に、指をくぐらせる箇所や、手を移動させる箇所は、最初にどの指から始めるかで後の動きが全部変わります。ここを決めずに始めると、あとで必ずやり直しになります。
決め方の基本は逆算です。フレーズの終わりで無理のない指になるように、始まりの指を選びます。楽譜に運指の数字が印刷されている場合は、まずそれに従うのが安全です。印刷されていない箇所や、手の大きさに合わない箇所だけを自分で決め、鉛筆で書き込みます。
そして、決めた運指は途中で変えないことが大切です。何度か弾いてどうしても無理があると分かった場合だけ変更し、そのときは書き込みも必ず書き直します。指使いが安定すると、目は音符を追うことに集中でき、譜読み全体の速度が上がります。
手を止めずに最後まで進むための練習手順

片手ずつ・ゆっくり・数小節ずつに区切る
譜読みの実作業は、範囲を狭めるほど進みます。1曲を頭から通そうとすると、読めている部分と読めていない部分が混ざり、どこに時間を使うべきかが見えません。2〜4小節という単位で区切り、その中だけを右手→左手→両手と回すやり方なら、1区画あたりの所要時間が読めるので、練習の設計もしやすくなります。
速度は、止まらずに弾ける速さまで落とします。ここで多くの人が「遅すぎて曲に聞こえない」と感じてやめてしまうのですが、譜読み段階の目的は音楽表現ではなく、正しい音とリズムを正しい指で通すことです。速度は最後に上げるもので、最初に決めるものではありません。
区切りをまたぐときは、前の区画の最後の1小節を含めて次に進みます。区画同士のつなぎ目は、あとで必ず弱点になる場所です。1小節ぶん重ねて練習しておくと、通し練習に入ったときの引っかかりが減ります。
鍵盤を見ずに弾く——位置は目ではなく体で覚える
譜読みが速くならない直接の原因が、視線の往復であるケースは多くあります。楽譜を見て、鍵盤を見て、また楽譜を探す。この往復のたびに、いま読んでいた場所を見失います。島村楽器の解説でも、鍵盤をいつまでも見ていては位置を覚えないため、楽譜に集中しながら鍵盤のドレミの位置を体で習得することが最優先で、これは空間認識能力と運動神経の発達に直結すると説明されています。
とはいえ、いきなり全部を見ずに弾くのは無理があります。現実的な進め方は、手の移動がない範囲から始めることです。手の位置が固定されている数小節を選び、そこだけ楽譜から目を離さずに弾く。跳躍や手の交差がある箇所は、鍵盤を見てよいと最初から決めておきます。
この練習は、譜読みだけでなく暗譜の質にも影響します。目で位置を確認しないと弾けない状態は、鍵盤の見え方が変わる環境では崩れやすいからです。体で位置を覚えている人は、どの楽器でも同じように手が動きます。
【失敗パターン2】止まってやり直す癖が「止まる曲」を作る
間違えるたびに手を止め、その小節の頭に戻って弾き直す。真面目な人ほどやってしまう練習ですが、これは「その場所で止まる」という動作を繰り返し練習していることになります。回数を重ねるほど、止まる癖のほうが定着していきます。発表会や録音で決まった場所が崩れるという現象は、多くの場合ここに原因があります。
原因は練習の設計にあります。止まらざるを得ない速度で弾いているのに、止まらないことを求めている状態です。対策は2段階で、まず速度を落として止まらずに通せる速さを探すこと。次に、どうしても止まる箇所だけを抜き出して、その部分だけを別に練習することです。曲の頭に戻るのではなく、その箇所だけを区画として扱います。
そのうえで、通し練習のときは間違えても止まらないと決めます。譜読み段階で通す目的は完璧な演奏ではなく、曲の流れと構成を体に入れることです。ミスの箇所には印だけつけて、通し終わってから区画練習に戻る。この分業ができると、止まる癖の再生産が止まります。
間違えるたびに止まって弾き直すのは、「止まる動作」を練習していることと同じです。通し練習では止まらないと決め、ミスの箇所には印をつけるだけにして、あとから区画練習で拾い直しましょう。
テンポを上げるのは、譜読みが終わってから
メトロノームは有効な道具ですが、使うタイミングを間違えると逆効果になります。まだ音を探している段階でメトロノームに合わせようとすると、音を確認する時間が足りず、間違った音のまま拍に押し込むことになります。譜読み段階でまず必要なのは、正確なテンポではなく正確な音とリズムの関係です。
切り替えの目安は、その区画を止まらずに通せるようになったかどうかです。通せるようになってからメトロノームを入れ、遅い設定から段階的に上げていきます。上げる幅は小さく、崩れたら1段階戻す。この往復が、いわゆる「弾けるテンポ」を確実に引き上げます。
また、速度を上げる過程で崩れる箇所は、譜読みが終わっていない箇所です。テンポを上げると弱点が可視化されるので、メトロノームは練習のチェック機能としても使えます。速く弾くための道具ではなく、どこが未完成かを教えてくれる道具だと考えると、使いどころが見えてきます。
譜読みが速くなる仕組み——ワーキングメモリーと和声
先読みは「運動×知的作業」の同時進行で成立する
譜読みが速い状態を分解すると、いま鳴らしている音を運動として処理しながら、先の音符を知的作業として読み取るという、2つの作業の同時進行になっています。島村楽器の解説では、この短期記憶の容量は、運動と知的作業を同時に行うデュアルタスクを日常生活に取り入れることで増やせると説明されています。
ピアノの練習に落とし込むなら、視線の位置を意図的に操作するのが最も直接的です。いま弾いている音符ではなく、その先に目を置く。最初は1音先、慣れたら1拍先、さらに1小節先へと広げていきます。広げすぎると手のほうが崩れるので、崩れない範囲の最大値を探すのがコツです。
この能力は、一度身につくと曲が変わっても持ち越せます。特定の曲を仕上げる練習と違って、譜読みの土台そのものを底上げする投資だと考えてよいでしょう。逆に言えば、常に鍵盤を見ながら弾いている限り、この力は伸びません。
和声を知ると、次に来る音が予測できる
もう1つの仕組みが、和声の理解です。曲は縦のライン(和音)と横のライン(メロディ)の進行に関する法則でできており、この法則を理解すると次に来る音を予測できるようになり、効率的に譜読みが進む——これが、譜読みのスピードを上げる方法として挙げられている考え方です。
予測できるということは、読む前に候補が絞られているということです。たとえば、ある和音の次に来やすい和音のパターンを知っていれば、音符を見た瞬間に「やはりそう来たか」と確認するだけで済みます。一方、法則を知らない人は毎回ゼロから読むことになります。同じ楽譜を見ていても、処理する情報量がまったく違うわけです。
とはいえ、和声を本格的に学ぶ前でもできることがあります。曲の中で同じ和音の並びが繰り返される箇所を見つけ、印をつけておく。それだけでも、2回目以降の読み取りは大幅に軽くなります。理論から入らなくても、パターンの発見から入れば同じ効果が得られます。
初見と譜読みは、似ているようで別の力
混同されがちですが、初見は「初めて見た楽譜をその場で弾く」力、譜読みは「時間をかけて曲を読み解く」作業です。初見では止まらないことが最優先されるため、多少音を落としても流れを止めないほうが評価されます。一方、譜読みでは正確さが優先され、時間をかけてよい。求められているものが逆なのです。
ここを混同すると、練習の方向がぶれます。譜読みを速くしたいのに初見の練習ばかりしていると、細部の精度が上がらない。逆に、初見力をつけたいのに1曲を丁寧に仕上げる練習だけをしていても、初めての楽譜に対する反応速度は伸びません。目的に応じて、練習の種類を選ぶ必要があります。
両者に共通する土台が、これまで扱ってきた線と間の認識、音形パターン、そして先読みです。土台が同じで出口が違う、と整理しておくと、どちらを鍛えたい日でも迷わずに済みます。
大人の再開組・子ども・グレード受験——タイプ別の進め方
大人の再開組は「読める」と「置ける」のズレから直す
ブランクを経て再開した人に多いのが、音名は読めるのに鍵盤上の位置に手が出ない、というズレです。子どものころに読み方は覚えていても、鍵盤との対応づけは体の記憶なので、使っていない期間に薄れます。ここを「譜読みができなくなった」と誤解すると、必要のない読み方の練習からやり直すことになります。
先ほどの切り分け方——弾かずに音名を声に出して読む——をまず試してください。声に出して読めるなら、必要なのは鍵盤を見ずに弾く練習と、手の移動を伴わない範囲での反復です。読み方そのものは残っているので、対応づけを戻す作業に絞れば、想像より短い期間で戻ります。
また、大人の再開組は練習時間が細切れになりがちです。だからこそ、ピアノがなくてもできる音名読みの時間を練習計画に組み込む価値があります。楽器の前に座れる時間は、鍵盤との対応づけという「ピアノがないとできないこと」に使う。この配分が、限られた時間での進み方を左右します。
子どもは、読む力を鍵盤より先に作っておく
子どもの譜読みでつまずきが起きやすいのは、曲の難易度が上がって音符の数が増えたときです。それまでは耳で覚えて弾けていたものが、耳だけでは追いつかなくなる。この段階で「譜読みが苦手」という自己認識ができてしまうと、あとから直すのに時間がかかります。
予防としては、弾く練習とは別に、音符を見て音名を答える時間を短く確保しておくことです。リズムを無視してよい音名読みは、ゲーム的に扱えるので続けやすい方法でもあります。「ド・ミ・ソ」「レ・ファ・ラ」といった1つ飛ばしのグループを声に出す形なら、飽きにくく、和音の理解にもつながります。
もう1つ、ヘ音譜表の露出量を意識的に増やしておくことも有効です。初期の曲は右手中心のものが多く、左手を読む機会が構造的に少なくなります。読む回数が少なければ苦手になるのは当然なので、機会そのものを設計する視点が要ります。
グレード試験を目安にするなら、級の区分で現在地を測る
自分の譜読みがどのあたりにいるのかを知りたい場合、公開されている級の区分を物差しに使うと、思い込みで判断せずに済みます。ヤマハ音楽振興会が実施するヤマハグレードのピアノ演奏グレードは、13〜11級が鍵盤初期学習者、10〜6級が学習者、5〜3級が音楽の指導者・専門家やそれらを目指す人、2級が演奏家や演奏家を目指す人、という4つのレベルに区分されています。
この区分で言えば、楽譜の読み方や基本的な奏法を習得する段階が13〜11級にあたり、楽典の理解や古典派作品の演奏能力が問われるのが10〜6級です。つまり譜読みの土台づくりは、制度の側から見ても最初期に位置づけられている工程だということです。ここを飛ばして曲だけ進めると、あとの段階で必ず戻ることになります。
なお、級の区分はあくまで学習の段階を示す目安であり、上達の期間を保証するものではありません。同じ級でも、譜読みが得意な人と手の運動が得意な人では、詰まる場所が違います。区分は現在地の確認に使い、練習の中身は自分の弱点に合わせて選ぶのが実用的です。
ハノンとチェルニーは、譜読みのどこに効くのか
練習曲集は譜読みそのものを教える教材ではありませんが、譜読みの後工程——読んだ音を手で実現する部分——を支えます。シャルル=ルイ・ハノンが1873年に発表した『60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト』は、指の独立性、柔軟性、速さ、力強さを鍛えることを目的とした60曲の練習曲集です。第1部(1〜20番)が基礎的なテクニック、第2部(21〜43番)が音階・半音階・アルペジオなどの応用と24調の音階練習、第3部(44〜60番)がトリルや連打、分散オクターブといった高度なテクニックという3部構成になっています。
一方チェルニーは、譜読みで出会う典型的な音形をレパートリーとして体に入れる役割を果たします。難易度は100番→30番→40番→50番→60番の順に上がり、100番がバイエル後の初級段階、30番が初級から中級への移行、40番はほとんど上級レベルとされ、40番が弾ければほとんどのクラシック曲に挑戦できるレベルだと説明されています。入門段階を終えて30番へ橋渡しをする位置には、700曲以上のエチュードから20曲を難易度順に厳選した『やさしい20の練習曲』(全音楽譜出版社)のような曲集もあります。
注意したいのは、練習曲を増やせば譜読みが速くなるわけではないことです。読み方の手順を変えないまま曲数だけ積んでも、1音ずつ数え上げる作業を回数分繰り返すことになります。読み方を切り替えたうえで練習曲に触れると、同じ時間で入る情報量が変わってきます。

毎日1時間ピアノに向かっているのに、先月と同じところで止まる。同じ小節を何十回も弾いているのに、翌日になるとまた弾けない。大人になってからピアノを始めた方、ある…
| 分類・成立 | 練習曲集(全60曲)/シャルル=ルイ・ハノン(フランス)/1873年発表 |
| 構成 | 第1部(1〜20番)基礎的なテクニック/第2部(21〜43番)音階・半音階・アルペジオなどの応用と24調の音階練習/第3部(44〜60番)トリル・連打・分散オクターブなど高度なテクニック |
| 開始時期の目安 | ブルグミュラー『25の練習曲』に挑戦する頃、またはある程度左右の指を鍵盤上で自由に動かせるようになってから |
| 1日の実施時間の目安 | 初心者は1日10〜15分(1〜2曲に絞る)/中級者以上はウォーミングアップとして5〜10分程度 |
| 向いている用途 | 読んだ音を手で実現する側の力(指の独立性・柔軟性・速さ・力強さ)を底上げしたいとき |
| 曲集 | 難易度の位置づけ | 内容の特徴 |
|---|---|---|
| 100番 | 入門段階 | バイエル後の初級段階で使用。多数のエチュードから厳選された易しい曲集 |
| 30番 | 中級(初級からの移行) | 最も標準的な練習曲集。古典派の基本的な技法を習得する段階 |
| 40番 | 上中級(ほとんど上級) | 30番の技法に流れる動きを加える。ピアノソナタへの準備段階 |
| 50番・60番 | 上級・最上級 | 50番は指の俊敏さと速度感を要求。60番はロマン派以降の難曲への準備で、音楽院受験でも使われる |
出典:島村楽器・全音楽譜出版社の公開情報をもとに当サイトで整理
まとめ|譜読みのコツは、読む順番を変えること
最初の一歩としておすすめしたいのは、いま練習している曲を鍵盤の前ではなく、机の上で開くことです。ピアノを弾かずに、音名だけを声に出して数段ぶん読んでみる。スラスラ読めるなら、あなたに足りないのは読む力ではなく、音名を鍵盤の位置に変換する回数です。声に出す段階で詰まるなら、線と間の並びをもう一度、呪文のように口に入れ直すところから始めます。どちらの結果になっても、明日からやるべき練習が1つに絞れます。譜読みは、正しい順番さえ決まれば、時間をかけたぶんだけ確実に減っていく作業です。まずは2〜4小節という小さな区画を1つ、止まらずに通せる速さで通すところから積み上げてください。
※グレードの級区分や曲集の構成・内容は改訂されることがあります。受験や購入を検討する際は、各公式サイトで最新情報をご確認ください。

コメント